★ ヘラルドシネクラブニュース 1998/5・6 ★
岡村洋一の聴 ク、映 画

『三人の映画監督』水曜篇


☆2/18(水)<東京・赤坂>

イギリス映画『8 1/2の女たち』第二次オーディション。控室に居るすべての俳優が震えていた。さっき、ダチョウ倶楽部が帰っていったとの事。コーディネーターの王さんに呼ばれて会場に入ると、すでに数台のビデオカメラが回っていた。気分はユウサク。
「こちらの紳士は英語ができます」美人の王さんがそう言うと、P・グリーナウェイの 碧く澄んだ目がキラリと光った。遊び心一杯の映画を作る監督なのに、大真面目な人だった。外国映画のオーディションは3度目だが、かつてこんなに張りつめた空気は味わった事がない。あの部屋だけ、本当に違う時間が流れていた。グリーナウェイの時間。
最終的には落ちてしまったけれど、悔いはない。

☆3/18(水)<東京・成城>
取材の後で『異人たちとの夏』の撮影現場の話になった。風間杜夫と大して年齢が違わないのに彼の母親役を演じることになった秋吉久美子は、待機中いつも監督の椅子に坐って風間氏と向き合って話していたという。その椅子は高く、しかも秋吉さんは平気で股を大きく拡げるものだから、風間氏はは初め目のやり場に困っていたそうだ。しかし、それが何回か続いて、やがて本番に入る頃、彼は彼女を女性としては全く意識しなくなり、母親と息子の関係になっていた。秋吉久美子の作戦だったのだ。
「これこそ、プロの仕事。だって母親ってそういうものでしょう?」
大林宣彦はくまちゃんのような笑顔でそう言った。

☆4/8(水)<川崎市・某スタジオ>
「今の日本ってさあ、みんな何かに縛られてつまんネェと思わない? 目が死んでるよ!」NYから一時帰国中の山本政志監督は怒っていた。
「そんな中でも、ドロップアウトした奴、本当に素敵なアウトロー達が描きたくて、今度の『ジャンク・フード』を作ったんだ」
「岡村が演った夫の役、あれは良かったよ。
あそこはやっぱりプロに任せて正解だったなぁ」。
撮影中はさんざんしぼられ、ボロクソだったくせに……
しかし、これで少々自信が蘇って来たゾ。

だから映画はやめられない。