★ ヘラルドシネクラブニュース 1998/3・4 ★
岡村洋一の聴 ク、映 画

メージからの脱出〜主役(スター)はつらいヨ

   「魂を売る。それだけでいいんだよ。」
このキャッチ・コピーはすばらしい。暗い赤色をバックにN.Y.のエグゼクティブ達の制服であるゼニア のダークスーツでキメたA・パチーノとK・リーブスが、真正面を見据えている。『ディアボロス〜悪魔の 扉』(日本ヘラルド映画配給)のポスターを見ていて、『ウォール街』を思い出すひとは多いと思う。あの ときのM・ダグラスのようにパチーノは世間の荒波を泳ぎまくり、時にはあくどいことも平気でやって、 現在の富と地位を築いた。一方キアヌは、C・シーンと同じく若く才能がある男。パチーノから多くを学び、 その手を汚してゆく過程で、自身の心の中の神である良心の呵責に苛まれる。
   映画のポスターを見ていると、いろいろ想像の翼がバタバタとして実に楽しい。しかし、何故こんな 風に連想してしまうのだろうか? それは俳優、特に主役をやってきた人達の持つ強いイメージのせいだ。 『ゴッドファーザー』シリーズでマフィアのドンを生き続け、『カリートの道』をくぐり抜けて『フェイク』 でかれてきたパチーノは、やはりずっと世の中の裏側を見てきた暗さをその瞳の奥に持っている。キアヌも また『スピード』で見せた誠実さと清潔感、イノセントな感じが今も強い。そう考えると、『ゲーム』の M・ダグラスには貧乏人は似合わないし、ショーン・ペンという人の顔はいつもどこかに負の部分を感じ させる。
   以前、ジャッキー・チェンにインタビューした時、こんな話を聴いた。「『ブラック・レイン』の 松田優作さんの役は、初め自分に来た。しかし、僕は悪役をやった事がなかったので断った。」主役(スター) はつらいのである。でも、『追いつめられて』のK・コスナーの様に時にはうまく裏切ってほしい。007 シリーズの後、カツラを撮ってお起きん冒険(イメチェン)をしたショーン・コネリーに、いつかその時の 心境を色々と尋ねてみたい。    『ディアボロス』はしかし、従来の法廷ものとは違った、想像を絶する終わり方をします。油断禁物。 だから映画はやめられない。

★岡村洋一・・・CBCラジオ「シネマ・プリズム」
 (毎週月曜日18:00〜18:30)のパーソナリティー