シネマ大全 た行・ツ

 椿三十郎 2007年 日本

深夜の社殿の中で、井坂伊織ら9人の侍が上役の汚職を暴き出そうと密談していた。
意気が上がる若侍たちの前に、社殿の奥から1人の浪人が現れた。粗末な身なりに口も悪く、腹が減っていると見える。しかし、話を聞く内に、井坂は浪人に類のない頭の切れを感じ、仲間に加わって欲しいと頼む。反対する侍もいたが、井坂は三十郎と名乗るその素浪人にえもいわれぬ魅力を感じていた…。



まず、黒澤明監督の名作「椿三十郎」をリメイクする… このリスクを背負う勇気に拍手するべきだ。
“やらない選択”は、簡単だ。

弱いと言えば、はっきり言って、全てが弱い。
織田裕二の、どうしても三船敏郎を意識してしまう演技的苦しさ。
トヨエツと仲代達矢では、ちょっと距離があり過ぎるだろう。

45年前、仲代達矢が演じた室戸半兵衛は、オデコが異常に広く、超巨大な昆虫みたいな不気味さがあった。
社殿の奥から現れた三十郎=三船には、“圧倒的な父性”があった。
織田三十郎は、大健闘してはいるが、残念ながら、“ちょっと年上のあんちゃん”止まりだ。

これは、織田裕二のせいではない。
そう。
これは、父性についての映画なのだ。
松山ケンイチは、“心やさしい、ちょっと気が弱い善人”である“現代の若者”を見事に具現化していた。
子は親を求め、親は子を求める。

旧作で、それらの全てを受け止めたのは、ラスト近くになって登場する怪優・伊藤雄之助だった。
あのどアップは、圧倒的だった。
今回の藤田まことは本当に難役だったが、残念ながらやはり弱い気がする。

でも、これでハッキリした。

日本と日本映画界は、今も昔も、圧倒的な“父性”を渇望しているのだ。
それが明らかになっただけでも、この映画の功績は大きいと思う。        

(2007.12.10)