シネマ大全 た行・ツ

 月とキャベツ 1996年 日本

バンド時代にカリスマ的人気を博したミュージシャンの花火は、独立後は創作意欲を失ってしまい、人里離れた田舎でキャベツを育てながら隠遁生活を送っている。会う人間といえば友人でカメラマンの理人だけだった。その夏、花火の前にひとりの少女が現われた。ヒバナと名乗るその少女は突然、花火の家に押しかけてきて、そのまま居ついてしまう。
ダンサーを志すヒバナは、かつての花火の歌で踊り、早く新しい曲が聞きたいと言った。はじめはヒバナの行為に戸惑っていた花火も、やがてヒバナの存在を受け止めていくようになる。
ヒバナのダンスを前にし、ふたりでキャベツ料理を食べ、ヒバナに素晴らしい風景の丘を教えられ、花火はまたピアノに向かうようになった…。



一つの名曲が出来て行くまでの過程を描いた映画でもある。
その曲のタイトルは、「One more time,one more chance」
実際にはこの曲の舞台は横浜辺りであり、この映画とは厳密にはフィットしないが、主演の山崎まさよしと真田麻垂美の持つ透明感と何とも言えない空気感が“そんなアラ探しやめろョ”と、優しく語りかけて来てくれる。
実は近頃、人間以外のものがよく私に話し掛けて来る。
昨日などは、“お願い、私を干して!こんなに良い天気は、当分ないと思うよ!”と布団の奴が言いおった。最近、また宮澤賢治を読んでいるせいか?

この映画を観ていると、心の底からキャベツが食べたくなって来る。特に“キャベツのステーキ”。 胡麻油を少し垂らすと、更にうまいゾ、きっと。
真夏の太陽の下、月の光の下、花火(山崎まさよし)は何百というキャベツ達と、どんな会話を交わしたのだろうか?
全体にスッキリとし過ぎている気もするが、それは私の心が汚れ切っているせいだろう。

監督の人柄は、撮影現場の雰囲気に反映し、撮影現場の雰囲気は、作品全体の出来に多くの影響を及ぼす。どんな撮影現場だったかは知らないけれど、作り手の真っ直ぐな気持ちがキチンと伝わって来る、誠実な一本だ。

(2004.6.7)