シネマ大全 た行・ツ

 憑き神  2007年 日本

幕末。
別所彦四郎は、婿養子に行った先から離縁され、兄夫婦の家に居候という肩身の狭い思いをしていた。ある時、彦四郎は、旧友・榎本武揚と再会する。そば屋の親父が言うには、榎本が出世したのは、向島にある「三囲り(みめぐり)稲荷」にお参りしたからだという。その帰り道、酔った彦四郎は「三巡り(みめぐり)稲荷」を発見。ここぞとばかりに神頼みする彦四郎だったが、それは「みめぐり」違いで、災いを呼び寄せるお稲荷様だった…。


しがない下級武士が、祈る相手を間違えて、貧乏神、疫病神、死神に取り憑かれ、奮闘する物語。『鉄道員』の浅田次郎原作、降旗康男監督コンビによる娯楽時代劇。

これは、“もう一つの壬生義士伝”に違いない。
貧乏神、疫病神、死神のキャスティングが絶妙だ。
しかし、そば屋の親父役の香川照之は、ちと若すぎはしないか?
無難なところでは笹野高史だろうが、ここは思い切って、鈴木清順か長門裕之なら、また違った映画になった気がする。

幕末、影武者という設定は生きているが、ならば、もう少し遊んでも良かったのではないか?
テレビドラマと違って、観客が映画に求めているのは、“日常からの脱皮”“大いなる飛躍”なのだ。

可愛い死神(子役の森迫永依)との邂逅によって、ずっと“死に場所”を探していた彦四郎の“終わり方”が見えて来る。
改めて、幕末とは激しい時代だったのだと思う。
死に方とは、生き方の提示なのだ。

上野・寛永寺のシーンなど、もっと一人一人の心の痛みを描いてあったら、この映画はピザではなく、ミルフィーフになったと思う。
時代の移り変わりも、一人一人の人生も、もっともっと重層的なものなのだ。

(2007.7.12)