シネマ大全 た行・ト

 トランスポーター     2002年 アメリカ=フランス

黒のスーツに身を包んだクールな男フランクは、運び屋のプロフェッショナル。ルールは3つ。“契約厳守”“名前は聞かない”“依頼品は開けない”。そのルールを一つでも破れば、待ち受けるのは死だ。新たな依頼品は、黒いパッケージ。しかし、どうも様子がおかしい。中身が気になり、つい蓋を開けてしまうフランクだが、中に入っていたのは、何と手足を縛られた美しい東洋人の女。そして、ルールを破ったフランクには、次々と厄災が降りかかって来るのだった……。


リュック・ベッソン製作・脚本の何本かの映画には、いくつかの共通点がある。 

@ 少なくとも、前半は謎に満ちた設定と魅力的なキャラクター、それにスピード感。         
A ある程度の東洋趣味と楽しめるカンフー・アクション。                              
B しかし、その満足感は結局ラストまでは続かず、“まあまあの映画”となって、“評価60点”くらいの
  気持ちで観客は劇場から出て来る事になる。 

「WASABI」や「ヤマカシ」は、かなり、ガックリで、「キス・オブ・ザ・ドラゴン」や「タクシー」はまずまず楽しめ、今回の「トランスポーター」は、かつてのライアン・オニール主演「ザ・ドライバー」にアイデアを借りたものの、“運び屋”のキャラと物語の展開は、途中でアイデアがガス欠になってしまった。 

観客は途中までそこそこ楽しませてくれると、物語のラストにしたがって、さらに作品に対して貪欲になるものなのだ。私が「ウォーター・ボーイズ」を評価しないのもその点だ。
この「トランスポーター」の“運び屋”も、どうせなら「ニキータ」の“掃除屋”や、「レオン」のジャン・レノのように、最後まで、そのキャラクターに謎の部分を残しておくべきだ。

途中から、カンフーの上手い、ただの退役軍人になってしまい、結構見せ場の多いアクション・シーンも、幾つかの香港映画の様に“観客へのサービスタイムですよー!”って感じにになって白ける。俳優が身体を張って、泥まみれで頑張っているだけに、観ている方は辛い。
                                                                   
こういう、巻き込まれ型のストーリーで、主人公がある種の美意識を持っている場合、アクションシーンはやむにやまれぬ事情で始まって、ストーリーの展開に覆い被さるように終って欲しい。
今は懐かしい「ニキータ」のあの“掃除屋”は死ぬその瞬間まで、謎めいており、自分の職務に忠実だった。

(2003.2.15)