シネマ大全 た行・ト

 ドッグヴィル    2003年 デンマーク

山あいの小さな村ドッグヴィルにひとりの女・グレースが逃げ込んで来る。どうやらギャングに追われているらしい。村一番のインテリを自負し、人々を正しく導くことに情熱を燃やすトムは、素性の知れない彼女をかくまう事を住民たちに提案する。                                          グレースを受け入れる条件は、2週間で彼女が村人全員から気に入られること。閉鎖的な人々と打ち解けようと、グレースは肉体労働を申し出て必死に尽し始めるが…。


他人を受け入れる、あるいは、許すという行為には、“自分が圧倒的に善の立場にある”という勘違いや、無意識に相手を蔑む傲慢さが潜んでいるのかもしれない。
黒い床にチョークで線を引いただけの斬新な装置は、デレク・ジャーマン監督の「エドワードU」を思い出させるし、欺瞞に満ちた状況で死地に迷い込む、という設定は、F・コッポラ監督の「地獄の黙示録」と似ている。もちろん、この監督が影響を受けたと言っているB・ブレヒトの舞台「三文オペラ」や「セツアンの善人」も入っている。

前作の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と違って、この作品でのトリアー監督は、表現したい事が明確で、実験的意欲、野心に満ちている。つまり、映画が若いのだ。
スターになり損ねた名優、ジェームス・カーンの使い方も実に粋でよろしい。
観客はこの映画が何処に向かって行くのか、誰も知らない。そして、想像を絶するラスト…。
あえて言いたい。これは、ハッピー・エンドなんだョ。
一通りの解釈で終わらない映画。それこそが映画なんだ。
                                                                    
私のニコール・キッドマンは、本作によって、また美しさと華やかさを取り戻した。                
ええぞ!
故・スタンリー・キューブリック監督に見せてやりたかったなぁ…。                         
まだ生きているあんたらは、見るべし!

(2004.3.20)