シネマ大全 た行・ト

 ドクトル・マブゼ 〜第一部・大賭博師   1922年 ドイツ

人間の生命と人間の運命を弄び人生の賭博を行う変装自在のマブゼ博士は数多の手下を使って犯罪を到る所で行った。贋造紙幣を造り、或いは株式市場を騒がせる等種々の事件があった。
金満家の息子ハルを彼は配下の己を恋する踊り子カラに命じて誘惑させる。
しかるに此の時署長ドゥ・ウィットがハルの保護に現れて、何者とも知れぬ此の巨盗を捕らえんとした。強敵と見てマブゼは是を除かんとし先ずハルを殺す。しかし、カラは捕らえられてしまう…。

“ドクトル・マブゼ”を演じるルドルフ・クライン・ロッゲの“眼技”が、凄い。
彼に睨まれると、催眠術により、誰もがその術中に嵌ってしまう。
私も鑑賞中、引っ掛かって、一瞬ウトウトとしてしまった(爆)。

“映画はトーキーになって駄目になった。サイレント映画は、芸術として完成していたんです”

この淀川長治さんの言葉を久しぶりに思い出した。
そして、エイゼンシュタイン監督の傑作「イワン雷帝」を思い出した。
それから、林海象監督の「夢見るように眠りたい」を思い出した。

ここには、美しき様式、作り手の確固たる信念、そして、“深い所で観客を楽しませたい”という、本当の意味でのサービス精神が存在する。

“ドクトル・マブゼ”は、“ドクター・ハンニバル”の原型に違いない。
あの「スター・ウォーズ」シリーズで、最終的に最も人気があったのは、ハン・ソロでもルーク・スカイウォーカーでもなく、ダース・ベイダーであった事を思い出して欲しい。

“ドクトル・マブゼ”と“ダース・ベイダー”、“ハンニバル・レクター”。
何処か語感が似ていないか?
究極の悪党は、究極のヒーローなのだ。
邦画で、あの「ゴジラ」以外に、こういう圧倒的悪役ヒーローを思い出せないのが淋しい。

まぁ、この〜…。悪い奴ほど、魅力的だ。
悪党は、黒光りしている。
日本で一番、黒光りしている俳優・舘ひろしに、近い内に究極のヒールを演じて欲しい。
共演はもちろん、“眼技”が最高の仲代達矢だ。      

(2007.6.21)