シネマ大全 た行・ト

 遠くの空に消えた   2007年 日本

のどかな田舎町。かつての楽園は今、空港建設を巡る争いに揺れている。
建設推進派の空港公団の団長である父親に連れられ都会から転校して来た亮介は、地元の悪ガキ・公平と反発し合うが、ふとした事から友情を築いて行く。
そんな二人を更に結びつけたのはいつも一人で丘に立つ少女・ヒハルだった。
彼女の夢は“父を連れ去ったUFOに遭遇する”こと。彼女の話を信じること、それが3人の友情の証。
しかし、大人たちの愚かな争いは日に日に激しくなり、子供たちのささやかな夢さえも握りつぶして行く。“ヒハルの夢を叶えたい…” 少年時代の最後の夏休み。
大切な友達を救いたいという亮介と公平の思いが、今、遠くの空に届こうとしていた…。

「GO」「世界の中心で、愛をさけぶ」等、原作を活かしながら、独自の映像世界に昇華させる手腕には定評がある行定勲監督が、書き上げてから7年間、温め続けたオリジナル・ストーリー。

きっとロシアが近いであろう、恐らくは北海道と思われる架空の村で展開される大人たちのエゴと子供たちのチャレンジのぶつかり合いを、天才子役・神木隆之介、三浦友和、大竹しのぶ、小日向文世、石橋蓮司など個性的な俳優陣で、ゆったりと、しかしテンポ良く描いている。

“F・コッポラ監督にとっての「ゴッドファーザー」が、行定さんにとっては「世界の中心で、愛をさけぶ」だとすると、今回の映画は、行定さんの「ワン・フロンム・ザ・ハート」かな?”

“いや、「ランブル・フィッシュ」です”

“ああ、なるほどね。解った!”

“もっと楽しようと思えば、幾らでも出来るんですけどね”

“ホントだねぇ…”

これは、昨年8月、この映画の酒場の中のシーンに参加した私と行定監督が東映東京撮影所の食堂で交わした会話だ。

皆、ほぼ不眠不休で働いていた。
私も苦しかったが、一つの作品を創作しているという、何とも言えない良きムードが撮影現場に漂っていたのを良く覚えている。

撮影現場の雰囲気は、必ず完成した作品に反映される。
独特の“行定ワールド”、その世界のくり抜き方は、他の追随を許さない。
かけがえのない少年時代の、夏草のキツい匂い、甘酸っぱい初恋の感触…。
それらが、かなり生のまま出て来るのに驚いた。

行定監督もまた、“ベテランの少年”だったのだ。
何処でもない何処かを描きながら、他の何処にもない世界の構築に成功したオリジナル・ファンタジーの登場だ。

(2007.6.26)