シネマ大全 た行・ト

 東京少女   2008年 日本

平成20年。高校生の未歩は母の再婚相手を紹介されるが、思わずその場から逃げ出してしまう。
その直後、突然、地震が発生し、未歩の手から落ちたケータイ電話は光に包まれて消えてしまう…。
時は、明治45年、小説家志望の宮田時次郎は今日も原稿がボツとなり、肩を落として帰る途中、いきなり建物が揺れ始め、天井から何やら降って来た。それは未歩のケータイ電話だった。「あのう、それ私のケータイなんですけど!」「ケ…ケッタイ!?…」時空を超えて繋がったケータイ電話。混乱しながらも2人は状況を理解し、何度も会話を重ねる内に、お互いに惹かれ合って行く。しかし、現代を生きる未歩は、やがて時次郎の“運命”を知ってしまう…。


青春ドラマから特撮まで幅広い作品を手がけて来た小中和哉監督の仕事の系譜でいうと、「四月怪談」の流れに入る映画だ。

別々の時代を生きる男女が、ひとつのケータイ電話を通じて出逢い、惹かれ合うという“有り得ない話”を大人の観客にも説得力を持って見せて行くには、ディテイルを丁寧に描く事が大切だが、愛知県明治村でのロケが非常に上手く生きており、100年の時間を超えて二人が“リアルタイム”でデートするシーンは感動的だ。

しかし、そのデートで二人が出会う女性が何故、時次郎にわざわざ“ありがとう”と言ったのか…。
幸せが不幸せに暗転して行く。その物語の流れに身を任せるしかない一観客である自分の非力さを感じながら、祈る様にラストへとたどり着いた。

悠久の時の流れの中では、明治時代もこの平成もほんの一瞬の出来事に違いない。
段々となくなって行く携帯電話のバッテリーは、我々が持っている命=時間そのものだ。

“有り得ないカップル”を演じた夏帆と佐野和真のフレッシュな存在感も特筆もの。
シンプルだが、久しぶりに心が綺麗になる映画に出逢えた。

(2008.2.5)