シネマ大全 た行・テ

 転校生〜さよなら、あなた      2007年 日本

両親の離婚を機に、尾道から母と共に、かつて幼少期を過ごした信州に転校してきた斉藤一夫。 手にする携帯電話には、父から貰った小さなピアノのストラップが付いている。尾道に恋人のアケミを残し、元気を失っていた一夫だったが、転校して来た善光寺北中学校で幼なじみの一美と再会する。
「大きくなったらあんたのお嫁さんになるって、キスしてあげたじゃない」。
幼少期のふたりの思い出を明け透けなく話す一美に対し、戸惑い、恥じらう一夫だが…。


有名な“尾道三部作”の一つで、名作の誉れ高い1982年の作品を何も今更リメイクしなくても…と、思ったのは、私だけではないと思う。しかし…。

“私ね、もう、ずう〜っと前から思っているんです。寅さんというのは、あの48本全部で、一本の長い長〜い映画なんだって…”

これは、ギネス・ブックにも載っている世界最長のシリーズで、“とらや”のおばちゃんを演じ続けた三崎千恵子さんの言葉。

今日、この作品を観て、はっきり解った。
大林宣彦という映画作家は、“大林ワールド”という、超長尺ものの映画を撮影し続けている人なのだ。

ストーリーは、前作とは、かなり違う。
騙されてはいけない。
同じ事を2度やる人ではない。 これは、断じてリメイクなどではない。

全編が、まるで、なめらかなフラッシュバック、いや、“思い出”みたいなタッチ。
いつも、微かな旋律が鳴り続けている、カノンの様な、詩の様な作品だ。
しかし、ここでの“現実=画面”は、何故か、時折、斜めに傾くのだ。
“現実”も、そろそろアヤしいかもね。

[思春期の少女]×[懐かしい感じがする地方都市]×[ライトなSF]=“大林ワールド”の勝利

という、言わば、“お約束の公式”を、自ら更に回転させ、観客を裏切るのは、ラスト近く、主人公2人が、あの林を抜けてからだが、ここには書かない。

“突然、出て来るあの赤い林檎は、一体、何のメタファなのか?”

と、幾度考えたところで、失われた’80年代は帰っては来ない。
答えはない。
人の一生に、結論などない。
すごく悲しい。
でも、誰も不幸ではないぞ。何故なら、これは命を繋いで行く映画だから。

「淀川長治物語」で、幼き日の淀川さんを演じた厚木拓郎をはじめ、石田ひかり、入江若葉、宍戸錠、根岸季衣、小林桂樹、小林かおり、高橋かおり等、“大林ワールド”の常連さん達も大挙出演、なかなか豪華で嬉しい。
今年69歳になる“ベテランの少年”大林宣彦監督のロング・ストーリーは、まだまだ続く…。

(2007.5.17)