シネマ大全 た行・タ

 単騎、千里を走る   2005年 中国

長年の確執を抱えたまま病に倒れてしまった息子が交わした約束を代わりに果たすため、高田は中国大陸奥地への旅を決意する。民俗学を研究する息子の健一は、舞踏家・李加民の仮面劇「単騎、千里を走る。」を撮影するために中国・雲南省を再訪する約束をしていたのだった。単身訪れた言葉の通じない異郷の地で途方に暮れる高田だったが、息子のためにという一途な思いが、通訳の青年チュー・リンをはじめ現地の人々を次第に動かして行く。


チャン・イーモウ監督作品でいうと、「秋菊の物語」や「あの子を探して」に近い。
高倉健という俳優の持っている寡黙で頑固で不器用なイメージが、そのまま映画の中に生きていて、それが少しずつ変化して行く。
そこに、なんと言うか“人間が生きて、死んで行く事の痛み”の様なものを感じてしまった。

ここに出て来る中国人は皆、素朴で良い人ばかりだ。
実際は、そんな訳はないが、それはそれで良い。
何故なら、世界もTVのニュースも石原慎太郎も、いつも悪意に満ち満ちているから。

古い村、古い建物、かなり面倒な父子関係、74歳の主人公・高倉健。
その彼が、最新機器のビデオカメラやデジカメを扱い、それが映画の中で効果的に作用している面白さ。

中国は、とてつもなく広い。
この映画に出て来る、あの巨大な景色とあの少年・ヤンヤンの事を思い出すと、靖国参拝問題などで、大声を張り上げている人たち全てが、限りなく小さな存在に見えて来る。

もしも、中国という国の懐が果てしなく深いのなら、やがては全てを飲み込んでしまうのかもしれない。

怖い気もする。
しかし…。
今の所、テレビのフレームの中では、悪意が圧倒的な勝利を続けているかに見えるが、善意だっていつまでも負けてばかりはいないはずだ。
そう、信じたい気がする。
そんな気持ちにさせてくれる映画だった。

(2005.11.12)