シネマ大全 た行・タ

 タロットカード殺人事件  2006年 イギリス

夏休みを利用してロンドンの友人宅に滞在中のアメリカ人学生サンドラは、遊びに行ったマジック・ショーで、敏腕新聞記者ストロンベルの幽霊に遭遇し、巷を震撼させる連続殺人事件の犯人が青年貴族ピーター・ライモンであるという特ダネを明かされる。ジャーナリスト志望のサンドラはスクープをものにしようと、三流マジシャンのスプレンディーニこと同じアメリカ人のシドと組んで上流階級のピーターに近づく…。


ウディ・アレン監督の「マッチポイント」に続くロンドン・シリーズ第2弾。
最近のアレンが愛してやまないスカーレット・ヨハンソン主演だが、ほとんどのシーンで、眼鏡をかけ髪を後ろに束ねており、顔がアップになる場面もない。
ここに、アレン少年のシャイさと、“惚れていますモード”がバレバレになっている所が可愛い。

サスペンスの巨匠・ヒッチコックと、ティッピー・ヘドレン(「鳥」)の関係にもちょっと似ているが、アレンはもっと軽やかだった。

細かい所をあれこれ言われれば、小さな矛盾がなくはないが、“イギリスへやって来たユダヤ系アメリカ人”のポジションは、まるで、9・11以降、居場所がなくなってしまった感じのあるアレンの新しい立ち位置の様にも思える。

サスペンス色は、それほど濃くはない。
だが、監督が描きたいのは“謎解きの楽しさ”ではなく、“生きている事のほろ苦さ”なのだ。
思い掛けないラスト近くの出来事に、それが顕著に表われている。
ここ数年のウディ・アレン作品では、最も、そのセンスの良さを堪能出来た一本だ。

(2007.11.10)