シネマ大全 さ行・シ

 刺青(しせい)〜堕ちた女郎蜘蛛 2006年 日本

妻子ある男性との不倫に破れ、出会い系サイトのサクラをしている女。妻子と別居し家を出て、今日を生きるために自己啓発セミナーの勧誘をしている男。穢れた過去を贖罪し救いを求める2人が偶然出会ったがために、女が、男が、そして周囲の人々が“刺青”に翻弄されて行く…。


何故か、ブレヒトの戯曲「セツアンの善人」を思い出した。出会い系サイトのサクラと自己啓発セミナーの勧誘という、この男女の職業の設定がとても現代的で、殺伐と軽く、果てしなく寂しい。  
この男のボスを演じる松重豊の“胡散臭さ”は天下一品。

3人が喫茶店で会うシーンは、何だか、今の“寂しい国・ニッポン”の縮図の様で、秀逸だ。
この、何だか“訳アリの儚い感じの女”は、女優なら誰でもやってみたくなる、“嫌われ松子”以来のキャラクターではないだろうか。刺青を入れる事の効用は、過去を洗い流すだけではないだろう。この映画の中で、刺青は、初め男と女を結ぶメディアであり、後に、金稼ぎのツールになり、そしてまた、メディアへと戻って行く。この男女のその後を知らないが、刺青なんぞ、結局はただのアクセサリーに過ぎない事に気付いて欲しい。


道具なんかに人生を縛られる事はない。文豪・谷崎潤一郎の原作「刺青」4度目の映画化に挑んだのは、鬼才・瀬々敬久監督。近々、会って話を伺えそうなので、楽しみだ。

2007.1.6)