博の父「ぽつん、と、一軒家の農家が建っているんだ。りんどうの花が庭いっぱいに咲いていてね、開けっ放した縁側から灯りのついた茶の間で、家族が食事をしているのが見える。
まだ食事に来ない子供がいるんだろう、母親が大きな声でその子供の名前を呼ぶのが聞こえる。わたしゃね、今でもその情景をありありと思い出す事が出来る。庭一面に咲いたりんどうの花。明々と灯りのついた茶の間。賑やかに食事をする家族達。私はその時、それが、それが本当の人間の生活ってもんじゃないかと、ふとそう思ったら、急に涙が出てきちゃってね。人間は、絶対に一人じゃ生きて行けない。逆らっちゃいかん。人間は、人間の運命に逆らっちゃいかん。そこに早く気が付かないと、不幸な一生を送る事になる。分かるね、寅次郎君…分かるね…」
寅「へい、分かります。ようく、分かります」
|