“桜が咲いております。懐かしい葛飾の桜が今年も咲いております。思い起こせば20年前、つまらねえことでおやじと大喧嘩、頭を血の出るほどぶん殴られてそのままプイっと家(うち)をおん出て、もう一生帰らねえ覚悟でおりましたものの、花の咲く頃になると決まって思い出すのは、故郷の事、ガキの時分ハナタレ仲間を相手に暴れ回った水元公園や江戸川の土手や帝釈様の境内の事でございました。
風の便りにふた親も秀才の兄貴も死んじまって、今、たった一人の妹だけが生きてることは知っておりましたが、どうしても帰る気になれず、今日の今日までこうしてこうしてごぶさたに打ち過ぎてしまいました。今、江戸川の土手に立って生まれ故郷を眺めておりますと、何やら、この胸の奥がぽっぽと火照ってくる様な気がいたします。そうです。私の生まれ故郷と申しますのは葛飾の柴又でございます…”
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