シネマ大全 あ行・オ

 オリバー・ツイスト   2005年 イギリス

19世紀の英国。救貧院に連れて来られたオリバー・ツイストは、粗末な食事に腹をすかせた孤児を代表してお粥のおかわりを要求し、追放処分になる。
一旦は葬儀屋に奉公するが、不当な仕打ちに耐え切れず逃げ出してしまう。
行く当てもない天涯孤独な身の上では、目の前に延びる街道を遥かロンドンまで、目指すしかなかった。
7日間歩き通して、大都会に辿り着いたオリバーは、スリの少年に拾われ、食事と寝床にありつけるからとフェイギンという男に引き合わされるのだが…。

貧困、飢え、犯罪の横行、公開処刑、浮浪児=コッチェビ…。
19世紀のイギリスは、現代の北朝鮮だ。
寄るべなきコッチェビ=オリバーは、生きる為に、ただ運命に身を委ねるしかなかった。
間違いとキチガイ、悪党と勘違い野郎は、古今東西、あらゆる場所に存在する。

“個人投資家も含めて、もっともっと勉強しないと、ずる賢い人達にヤラれてしまいますよ”

これは、この一ヶ月間で最も多くマスコミに登場した“元・時代の寵児”の言葉。
現代ニッポンにおいても、状況は大して変わっていない。
寄るべなきオリバー・ツイストはしかし、ヤラれても、ほとんどヤリ返したりはしないのだ。

彼の澄んだ目を信じた善良な老紳士が、救いの手を差し伸べようとするのだが…。
ヤリ返さないオリバー・ツイストは、本当は世界で一番強い男なのかもしれない。
フェイギン役を演じた名優、ベン・キングスレーは、扮装に凝り過ぎて表情が解りにくく、「シンドラーのリスト」の時の様な奥行きを感じさせないのが残念だが、「戦場のピアニスト」のロマン・ポランスキー監督の時代描写&人物像の形成は手堅い。 

映画の終盤で、不幸な少年時代を終えたオリバー・ツイストの未来に幸多かれ。
そして、今この瞬間も、路上で凍えている、かの国のコッチェビたちにも…。

2006.2.3)