シネマ大全 あ行・オ

 女の中にいる他人   1966年 日本

メロドラマの名手として知られる成瀬巳喜男監督が、エドワード・アタイヤの小説「細い線」を翻案した心理サスペンス。夫の犯罪を知った妻が最後に下す衝撃の決断とは?

家族ぐるみの友達づきあいをしている田代と杉本。ある日、杉本の妻・さゆりが何者かに絞殺される。以前からさゆりと密会していた田代は、良心の呵責に耐えられず、妻の雅子にすべてを告白。自首しようとする…。

ごく普通の日常生活の中に、殺人事件という異物が入ってくる面白さ。
温泉地のトンネルの中で、自らの罪を告白するシーン。
夜中の夫婦の会話で、人物の顔の大部分が影になっている斬新な照明。
社長役の十朱久雄のトボケた味わい。新珠三千代の熱演…。

これらの素晴らしさに比べて、田代と友人・杉本(三橋達也と小林桂樹)の男優陣が少々弱いのが残念だ。しかし、40年前の日本人が持っていたある種の“素朴さ”も伝わって来て、最後まで結構楽しめた。
白黒の映像というのは、やはりサスペンスにとても合っている。
ああ、ヒッチコックが観たくなって来た…。

2006.1.27)