シネマ大全 あ行・オ

 オペレッタ狸御殿   2005年 日本

我こそは生きとし生けるものの中で一番美しくなければならないと固く信じる、がらさ城城主・安土桃山は、嫡男・雨千代の美貌に嫉妬し、霊峰・快羅須山へ追放し亡き者にしようとする。
すんでのところで、罠から逃れた雨千代は、狸御殿の狸姫と出逢い、たちまち恋に落ちる。
しかし、狸姫の乳母・お萩の局は、唐の国からわざわざ招かれた姫と人との恋を認める訳にはいかず、雨千代を牢に閉じこめるのだった…。

いやぁ、参った!
すっかり忘れていた。 相手は鈴木清順なのだ。そんで、狸の映画なのだ、これは。
ストーリーなんぞ、追ってはいけない。
起承転結、地獄に落ちろ。今や、正義は死に、親子・兄弟の情愛も土俵際だ。

湯婆婆の実写版・由紀さおりの歌があまり聴けないのは残念だったが、デジタル出演の“美空ひばり”が、本当にあの世からやって来たみたいで、筆舌に尽くし難い、悲しげな存在感。
もう、倒れそうになった。
この“出演”の許可を出したひばりプロダクションに、心から敬意を表したい。
薬師丸ひろ子も、久しぶりに丸く輝いている。さては、毒掃丸でも飲んだか?

同じ清順監督の「カポネ、大いに泣く!」では、横浜をアメリカ国と言い切って、貫き通した。
「ツィゴイネルワイゼン」では、この世をあの世と言い切った。
もう、こうなったら、スパゲティの上にアンコを乗せてもいいし、墨汁を飲みながら、鉛の靴を履いてロックを歌ったって、エエじゃないか!
ハッタリも20回繰り返せば、5%位は、真実味が出て来るでなも。

もう何が出て来ても、何をされても、絶対に驚くもんか!
何せ、相手は狸で、鈴木清順なんだぜ。
これを観たF・フェリーニと寺山修司の感想を訊きに霊界へ行ってみたい所だが、帰って来られなくなるといけないので、今夜は、赤ワインにする。

一つだけ、不満がある。
清順監督の弟である鈴木健二・元NHKアナウンサーが出演していない事だ。
彼こそ、狸なのに…。

いや、待て待て、待てよ。
そうか、パパイヤ鈴木(!)に、化けていたのか。
そうだ、そうに違いない。
さすが、清順!!  抜かりはない。
いやぁ、本当に参った…。

2005.6.16)