シネマ大全 か行・コ

 ここに、幸あり  2003年 日本

東京でバイトをしながら暮らす、売れない役者・幸。彼の夢は自分の「個性」を見つける事だった。ある日、マネージャーの命令で、福岡県・姫島の田舎で浪人をしている邦に演技トレーニングを教えに行く事になるのだが…。これ以上、ストーリーを書かない方がいいかもしれない。


イランの巨匠、アッバス・キアロスタミ監督からも高い評価を受けた「いつものように」(’97年)のけんもち聡監督の最新作。我々、特に東京で暮らしている人間のほとんどが相当、おかしな生活をし、汚れちまっている事に改めて気付かされてしまう作品。

何よりも、監督に変な野心がないのが映画を品のあるものにしている。近頃、あざとくて、あざとくて、クサさが目に沁みる映画がいかに多い事か!

私は大っ嫌いなんだよ。

“わかったよ、アンタのCG技術が大したモンだって事はさ!”というような映画。

“わかったよ、アンタの交友関係がとても広いって事はさ!”というような映画。

“わかったよ、アンタが小津やタランティーノが大好きだって事はさ!”というような映画。

そんな事、ホーム・ビデオでやってくれ。1800円、払わされる観客の身にもなってくれ。

最近では結構好きだった「ホテル・ハイビスカス」さえも、この映画の前では、あざとく見える。細かい事を言えばキリがないが、何かに依存しよう、という見え透いた根性が全くない所が何より気に入った。けんもち監督と一時期、親しくしていたが、実際の彼もこの映画の様に、一言で言えば、不器用だけど、汚れてない人。

同じ映画を何度か観ても、出ている俳優の正体はつかめないが、監督の人間性はバレバレなのだ。映画監督はすべて、精神的ストリッパーさぁ。

ゆやーん、ゆよーん、ゆや、ゆよーん…。 
言っとくけど、今夜は一滴も飲んでないからね。

(2003.9.5)