シネマ大全 あ行・エ

 エイプリルの七面鳥    2003年 アメリカ

感謝祭の休日。ニューヨークで恋人と同棲しているエイプリルは、間もなくやって来るであろう家族のために七面鳥と格闘している。
家族とうまく行かず家を飛び出していた彼女は、この機会に家族と、特に母親と和解したいと願っているのだ。
同じ頃、エイプリルの家族は、両親と妹弟、痴呆症の祖母が小さな車に乗り込み、一路ニューヨークを目指す。家族にとって、この休暇は特別なもの。 おそらく、一家全員で過ごす最後の休暇になるからだ。母のジョーイは、ガンで余命幾ばくもない身体なのだ。
薬の副作用で気分が優れず、ただでさえ勝ち気な性格がますますトゲを含んだものになっているジョーイをいたわりながら旅は続く。だが、食事の支度をしているエイプリルは、その頃、想像を絶するトラブルに見舞われていた…。

ノー・スターの映画。 でも、私はこの映画を本年度のベスト・テンに入れようと思っている。

母親役を演じるパトリシア・クラークソン(「グリーンマイル」「ドッグヴィル」)が、難しい役柄をこなしている。彼女がかつて、もっと若くて美しかった日々の写真も出て来て、残酷だが、そこには愛しい日々が、かい間見えて来る。 愛しい日々…。

エイプリル以外にも(私のまわりでも)赤の他人とは上手くやって行けるのに、家族とは冷戦状態、という人は結構いる。
一見優しそうだが、結局は冷たかったり、変人だったりする、このニューヨークのアパートメントの住人も、悪い人ばかりではない事が、そのうち解って来る。
アメリカ合衆国が、人種のサラダボウルであり、小さな地球である事を再認識した。
それから、別に母親がガンでなくても、我々の持っている時間は、誰でも限られているのだという事も…。

この映画が安価なビデオ撮影によるものでなければ、美しい秋のニューヨーク郊外をもっと堪能できたのに、残念だ。
しかし、物語の省略のセンスが実にいい。後味の良さ、切れ味も悪くない。
脚本・監督は、私が大好きな映画「ギルバート・グレイプ」の脚本家・ピーター・ヘッジス。
忍び寄るヒンヤリとした秋に、心が温かくなる佳作だ。

2004.9.16)