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岡村通信 No.5 「悪意を憐れむ歌」 |
2001年3月20日 |
お元気ですか? 桜の咲くのが待ち遠しいですね。 近頃の出来事&最近の私です。 【 ここへ来るのに30年もかかってしまった 】 2月28日 オランダ・アムステルダム アンネ・フランクの家 あまりにも生々しい。そこに居る間、心がずっとズキズキ痛かった。 あの有名な本棚の後ろの、秘密の隠れ家への入り口をくぐって、アンネが実際に暮らした部屋に着いた。壁に貼られているグレタ・ガルボやジンジャー・ロジャーズの写真、レオナルド・ダ・ヴィンチの自画像…。 ナチスのユダヤ人への迫害から逃れて隠れ住んだ2年の間、彼女はここで通信教育により英語を学び(勿論、他人の名前を使って)幾つかの物語を書き、いつか自由になる日を夢見て、恋もした。 57年前、確かに彼女はここに居た。13歳の誕生日に送られた赤いチェック柄の、鍵の付いた日記帳。そしてユダヤ人である事を示す為のあの黄色い布製のワッペン。 ここにあるのは、どす黒い悪意だ。人間の、他人に対する悪意。大昔から人間は人間を差別するのが大好きだ。 アンネ・フランクは生きていれば今年は年女の72歳。私の父と同い年。そんなに昔の出来事じゃあない。中2の時に「アンネの日記」を読んでから、随分と歳月が流れてしまったけれど、どす黒い悪意は残念ながら形を変えて今も世界のあちこちに存在する。 谷川俊太郎さんの詩の一行を思い出した。 “ そして、隠された悪を注意深く拒む事 ” 【 私はどうしようもない甘ちゃんでした 】 3月4日 パリ・地下鉄・シャンゼリゼ駅 ロダン美術館は素晴らしかった。オペラ座通りの寿司屋・フジタへ向かうべく乗り換えの電車に乗ろう とした時だった。5〜6人の中学生くらいの子供達が近寄って来て、その内の一人の女の子が私の目を じっと見ながら何か喋っている。何語かはわからないまま一瞬、意識がボーッとした。気がした。 子供達が電車を降り、ドアが閉まって発車してしばらくしてから、ウェストバッグの中の財布とドル を入れた封筒等が無くなった事に気が付いた。それから私がした事は、シャンゼリゼ駅へ戻り、日本 へ電話してクレジットカードを止め、警察署へ行き被害届を出し証明書をもらった事。 この間約30分…。 冷静ではなかった。財布ではなく、何とか自分自身を取り戻そうともがいていた。 一所懸命、こう念じていた。
「あの時と比べても自分は相変わらず、ただの甘ちゃんだ!」 「疲れてたし、油断してた。それにしてもあれは何だ?全く気が付かなかった。一種の催眠術か?」 「いいトシして何やってんだ!全く恥ずかしい。何だ、あいつら。ああ、世界は悪意に満 ち満ちていて、俺は本当に大馬鹿野郎だぁ!」 帰国してこの話は随分ラジオ番組のネタになった。今は自分を回復したが、あの少女の悪意に満ちた薄ら笑いは、頭の中からまだ消えない。盗られた私より盗った彼らの方が人間として不幸だと思う。 その事にあの子達はいつか気付く日が来るだろうか? 知らぬ間に芽生えている悪意と花粉症にご用心を… もしよろしければ、あなたの近況も教えて下さい。 ではまた! |