あさくとも
「どどいつ」 と 「大津絵節」 を別格として、「紀伊の国」、「羽織かくして」、「夕暮れ」、「忍ぶ身の」、「わが恋は」 など、明治初期の唄本を賑わした端唄の多くは、明治20年以降の唄本から姿を消していきます。 なかで
もうしばらく残ったのがこの 「浅くとも」 で、KDL からの検索では、明治10年代に4件、20年代7件、しかし30年代と40年代にそれぞれ僅か1件がヒットしました。
浅くとも 清き流れの かきつばた
飛んで往き来の 濡れ燕
覗いて見たか 編笠を
顔は見とうは ないかいな −「日本俗曲集 第4版」 明治26年 による
ちょっと苦しいけれど、唄ってみました
さかのぼって明治14年発行の中村忠七編 「葉哥花のしをり」では、この唄は 「ながうたけいこぼん 本調子 あさくとも」 となっています。 その前年に発行された同じく中村忠七による唄本
「あさくとも・御所車」 から、流行を裏付ける替え唄を幾つか紹介しましょう。 さすがは長唄本、艶っぽい唄の文句のどれにも品がありますネ。
あさくとも 清き流れの 水鏡
うつればかわる ひと心
まして男の 胸のうち
じつにやる瀬が ないわいな
いまさらに 会えば互いに 口説して
しばし無言の 背なあわせ
しんぼ しかねて仲直り
すれば間のなき 明けの鐘
こっそりと 離れ座敷の 爪弾きは
よそのひと目を 忍びこま
障子をもれて 聞く音の
憎らしいでは ないかいな |