2011年9月9日
「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」は、9月6日の神奈川県教育委員会定例会議において、知事宛に提出した「請願書」にもとづき陳情を行いました。以下に、当日行った保永博行氏の陳情を資料として紹介します。
2011年9月6日
私は、現在、県内の夜間定時制高校で教員をしております保永と申します。
「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」で共に活動する10団体を代表して意見を申し上げます。
私の勤務している定時制高校はたぶん、夜間定時制高校では日本最大の規模ではないかと思います。
4学年で合計17クラス、450名もの生徒が在籍しております。ここ数年間での最大人数は487名、入試のたび毎に、4月からの新年度は総勢500名を超えるのではないかとヒヤヒヤする状態です。
今回の請願では、次の7点について、ぜひ十分な時間を取ってしっかりと討議し、事態の改善を図って頂きたいと思います。
1,公立高校の募集定員を公立中学卒業者数の60%と固定する案を撤回し、公立高校全日制の募集定員を十分に増員すること。
2,「全日制計画進学率」を県民に明示して、生徒募集計画を策定すること。
3,2012年度生徒募集計画については、「全日制計画進学率」を少なくとも2010年度公立中学3年生の進路希望調査での全日制希望率91.4%とし、公立高校および私立高校の募集定員を確保すること。
4,私立高校生徒募集定員を充足させるために私立高校生徒への学費補助制度の改善(助成額の増額と対象所得限度額の引き上げ)を図ること。
5,生徒募集計画の策定に当たっては、中学および高校の教員代表、PTAおよび保護者代表を正式メンバーとして参加させること。
6,公聴会を開き、受験生の保護者、中学校・高等学校の教職員、県民、中学生から具体的な実態や問題点、意見などを聞いてそれを公表し、審議を行うこと。
7,全日制高校の不足および夜間定時制の過大規模化と遠距離通学の負担を解消するため、川崎市に隣接する横浜地域に全日制高校と夜間定時制高校を増設すること。
では、今述べました請願項目がどうして必要なのかその理由を、端的に申し上げます。
ご存じのように、今年春の全日制進学率は、88.0%とまたまた最低を更新しました。2007年入試に「率による割り振り方式」を導入して、「公立6割」にむけて公立募集枠を絞り込む中で、全日制の進学率は毎年急低下を続け、全国最低水準を更新しています。
設置者会議と公私協を設置したそもそもの目的は、『基本合意』にあるとおり、@生徒の視点に立った定員計画、A全日制進学率の向上、B生徒一人ひとりの希望と適性に応じた進路の確保、にあったはずです。
この3点、いずれも実現はおろか、毎年、逆に悪化する一方です。いま深刻なことは、神奈川の全日制希望率が異様に低くなってしまったことです。神奈川の全日制希望率はいま91.4%。97年の全日制進学率の92.5%よりも1%以上も低く、「2010年3月の国公私立中学校卒業者の全日制高校進学率の全国平均91.94%」よりも低くなっています。生徒たちに将来の夢を語る余裕はありません。現実への妥協あるのみです。
教育に携わる者としては、それが何を意味しているかをよくよく考えなくてはなりません。本来、教育とは希望を与えるものであるべきです。それが、神奈川では、9年間の義務教育の最終段階で、『全日制進学をあきらめさせる』という『絶望』を与えているわけです。中学3年間は学年が進むに従って、全日制希望率が低下しています。高校入試・生徒募集、進路指導のあり方が、教育を破壊しています。
8月29日の公私協議会では、「来年度の公立枠は60.0%を変えずに、緊急対策として261名を県外枠に上積みする。」との県担当者の提案に対して、「その緊急対策の分は公立と私学で折半し、公立枠の上積みを120名とする。」という形で「合意」しています。
この「合意」には大きな問題があります。まず、なぜ公立6割を見直さないのか。また、緊急対策としての120名はたったの0.2%。「焼け石に水」にもなりません。そこには「現状を変える」「こどもの将来を考える」という意思は全く感じられません。受験生にとって、高校入試は一生に一度限りの重大事。その後の人生を大きく左右します。
生徒達は、「全国で一番過酷な競争」をおしつけられています。全日制希望から 定時制 そして 通信制へという 不本意入学は増加の一途。 生徒の視点から、この状態を見れば、「大人たちは嘘つきだ」となります。「高校全入ではない」「競争は必要だ」とかいいますが、大人の都合で、一番弱い立場の子供の人権を侵害して、強い大人たちが平然としている神奈川の現状は醜い限り。この神奈川の将来をどのように築いていくのかを、だれが責任を持って考えるのでしょうか。
定時制・通信制の高校は「ドラえもんのポケット」ではありません。どんどんほうりこめばいい、そのうち、やめるか、どうするかは自己責任、などという状態は、とても正常な教育制度ではありません。
いま、必要なことは、まず、「公立6割」を撤廃して、公立募集枠を増やすことです。また、私学も募集枠を現在より拡大し、生徒への学費補助を年収500万円、600万円の層まで大幅に増額して、全日制高校へ行ける条件をつくることです。教育委員会としても全体計画を作る中で、私学について条件整備を求める必要があります。
県民を代表して教育に責任を負う教育委員会は最後の砦です。せめて、2010年10月進路希望調査にある全日制希望率91.4%は実現して欲しいものです。その達成に向けて、計画進学率を県民に明らかにして、生徒や県民の立場に立った審議をお願いします。
以上、よろしくお願い申し上げて、口頭陳情を終わります。