2011年9月16日

 7月31日、横浜で行われた「公立高校の入試制度の改善を考える県民シンポジウム」で、「かながわ定時制通信制教育を考える会」代表の中陣唯夫は公立高校の入学定員の拡大と「定通分割選抜」見直しを求め発言しました。当日は時間の関係で割愛した内容を含め、以下に全文を紹介します。なお、「かながわ定時制通信制教育を考える会」は同日に、神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改善方針(案)に対する「意見書」を発表しました。


 私は20年来、夜間定時制問題について取り組んできました「かながわ定時制通信制教育を考える会」代表の中陣と申します。

 今日のシンポジウムのスローガンに掲げられています「『十五の春』に明るい未来を!」を主題に、本当に子どもたちの立場こ立つなら、今日の神奈川の高校入試制度に求められている改善とは何か、彼らが切に願っている点は何か、について発言します。

 そもそも、高校進学に夢を託して受験勉強に励む子どもたちには、何が一番の望みでしょうか。もちろん、それは、人並みに努力すれば保護者に心配をかけずに進学できる程度に、募集定員が保障されていることだろうと思います。

 こうした子どもたちの心を推しはかれば、「選抜制度改善案」の論議は、公立全日制の募集定員がその年度の公立中学卒業予定者の60%、競争率1.4倍という「狭い門」で、容易に入学できないような現状では、「私には何の意味もない、大人社会の都合による小難しい話」としか聞こえないのではないでしょうか。

 例えていえば、100人の入場がはっきり予想される催し物会場に、客席が70席しか準備されていない。30人が入れないで待機しているのに、会場係は一生懸命、客席の足りない椅子の準備ではなく、そのレイアウトをどうしようかと必死になっている。会場に入れない30人が、いつ入れるのですかと催促しても、係員は、ロビーの第一モニターか第二モニターで会場の様子をご覧になってくださいとしか返事をしない。この30人の入場希望者は、観客にも、いわんやステ−ジにも立てないという立場に気づき、不平不満の思いを抱えてどこかに行って分からなくなってしまう。いま、神奈川県の公立高校入試の現実は、こんな状況にあるのではないでしょうか。

 事実、この「30人」には、行方のわからなくなった子どもたちがたくさんいます。中学校の担任も追跡調査ができないという有様です。

 これまで、制度の「改善」は幾度となく言われ実施されてきました。しかし、2004年度から始まった現行の「入試制度」や2005年度より実施の「学区の撤廃」は何をもたらしたでしょうか。子どもたちの高校で学びたいという希望に応えたでしょうか。いえ、そうではありません。実際には、子どもたちの希望の実現と制度「改善」は連動していないどころか、全くウラハラとなっています。

 県教育委員会が1999年、「県立高校改革推進計画」において「段階的に計画進学率を引上げる」と公約したにもかかわらず、全日制高校への進学率はドンドン低下して止まらず、昨年度ついに全国最下位の88.2%にまで低落してしまいました。これは、約40年前の1973年度の92.4%、「中卒者急増期」といわれた1987年度から3年間の平均実質進学率91.1%にも及ばない数値です。今日より中学卒業者数が約55,000人も多い中でも、当時の教育委員会が「計画進学率」に近づけようと奮闘した結果だろうと思います。

 現在も、全日制への進学希望者は91.4%、公立全日制は80.9%(09年10月調査)です。こうした反面、定時制、通信制への進学率は全国一位になりました。大手全国紙の地方版でさえ、「定時制は人気があるんだ」などと書き立てました。ほんとうに、神奈川の子どもたちの定時制、通信制への進学希望は、全国一なのでしょうか。そんなことはありません。

 県自身が調査した一昨年のアンケートでも」「高校への門戸」が狭まったため、やむなく夜間定時制に入学したという生徒は、45%も占めるようになっています。県はこれを、どうお考えになっているのでしょうか。

 こうした実態は、自然現象ではありません。全日制進学率が全国最下位に陥った根本的な原因の一つは、神奈川県が2000年から10ヵ年計画で実施した「県立高校改革推進計画」にあります。制度「改善」の前段で、「生徒減少期」を名目に、県立高校25校を整理統廃合するという「県立高校リストラ」=「県立高校改革推進計画」)路線を敷設したことにこそ、原因があるのです。

  この「計画」は、「教育を受ける権利」を度外視した、新自由主義的で紋切り型の、「高校は義務教育ではない」という「高校適格者主義」を前提に強行されてきました。前知事は、さかんに「神奈川力」ということを口にしましたが、こんなことでは、かえって「神奈川力」が衰退するのではと心配です。

 この10年間の「計画」の性格は、進学を願う子どもたちの立場からふり返れば、容易に理解できることです。以上の経緯から、この「入試制度改善案」は、キャパステイ(募集定員枠)と一体になっていてこそ改善といえるのであって、キャパステイの問題解決を含めない「改善」では、それは単なる改変というものに過ぎなくなるでしょう。この機会に進学率の向上を求めることは、非現実的な「無いものねだり」などでないことは、これでお分りいただけると思います。人為の誤りと反省は、人為により改善、解決できるはずのものです。

 また「改善方針案」では、眼目の当初募集定員の100%を「共通選抜」するとしながら、全日制と多部制定時制高校5校を除く、夜間定時制と通信制だけが当初募集定員の80%しか募集できず、あとの20%は全日制の合格発表後に「選抜」するという「定通分割選抜」で、なぜ、「改善」から置き去りにされてしまうのでしょうか、釈然としません。

 全日制、定時制、通信制すべてで100%募集の「共通選抜」にして、夜間定時制や通信制への進学をのぞむ志願者の希望を保障すべきです。夜間定時制と通信制が、全日制不合格者を受け入れる「調整弁」として20%の枠を空けて、スタンバイしていなければならないとすれば、「公立高校における学びを幅広く提供するため」という言葉に隠された「差別行政」と批判されることにならないでしょうか。

  「分割選抜」の理由が、「学びを幅広く提供する」であるというのならば、「改善方針案」の眼目である「共通選抜」を下ろして、全日制も含めて、これまでの「分割選抜」(複数回受検)に戻した方がいいということになりませんか。あまりにも軽い、ご都合主義的な論理矛盾です。
 
  不登校や学力の進度の点で相対的に遅れをとっていて、夜間定時制に学ぶことを望んでいる子どもたちを、弾き飛ばして、「教育の機会」を奪ってしまう恐れのある(これはすでにこの10年ばかり露呈している現実ですが)、この「定通分割選抜」には、はっきりと私たちは反対します(80%に募集定員が抑えられることにより、不登校の子や働きながら定時制や通信制で学びたいと希望している人には、枠が狭められ厳しい入試になります。1回目の「共通選抜」で不合格となった場合、次の「定通分割選抜」では、全日制を不合格になった子どもたちが殺到するため、希望する定時制や通信制に入学できないことが予想されます)。

 そもそも、より基本的な教育行政の前提は、「教育の機会」の保障に心を砕き、その「均等」に教育委貞会の衆知を集めることではないでしょうか。このことを「入試制度改善方針」に据えていただくことをお願いして、私の発言を終わります。

 「かながわ定時制通信制教育を考える会」が「入試制度改善案」に対して提出した「意見書」
   「希望する課程の高校に入学でき、「15の春を泣かさない」入試制度に変えましょう」

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