2002年6月8日


入学者選抜制度・学区検討協議会『中間まとめ』に対する意見書
「15の春を泣かさない」入試制度の導入を考えましょう
「かながわ定時制教育を考える会」 代表  中陣 唯夫


  入学者選抜制度・学区検討協議会がこの3月末に発表した『入学者選抜制度の改善と今後の学区のあり方について(協議経過の中間まとめ)』に対して、「かながわ定時制教育を考える会」の代表として、意見を述べたいと思います。

  『中間まとめ』は、この協議会が「高校で学ぶことを希望する子どもたちにとって、これまで以上に一人ひとりの個性に応じた入学者選抜制度となるよう、また、高校の再編整備を踏まえ、自らの進路希望に基づいて特色に応じた学校選択が可能となるよう、入学者選抜制度のいっそうの改善と今後の学区のあり方を検討するため、平成13年4月に設置された」と冒頭に記しています。

  この点について、本当に「高校で学ぶことを希望する子どもたちにとって」ふさわしい入試制度のあるべき姿を考えるにあたり、私どもは今年度(2002年度)の高校入試を振り返り、そこから制度改善の前提を学ぶ必要があると思います。


全日制や定時制に入学できなかった子どもを、多く生み出した02年度入試


  今年は、新設された横浜総合高校(3部制総合学科の定時制高校)が全日制入試の学力検査の日に、学力検査をともなわない第1回選抜試験を行いました。競争率がT部で7.87倍、U部で4.91倍、夜間部のV部で3.03倍でした。結果的に、約600名もの不合格者を出すこととなりました。横浜市による強力な宣伝の影響もあってか、あえて全日制を受検せず、この定時制高校を受けた人が何人もいたと聞きます。また、昼間定時制ということで、多くの不登校の子が受検したものの、高倍率のためかなりの子が不合格になったと言われています。

  また、定時制の1次入試では、1994名の募集に対し2523人が志願し、平均競争率が1.27倍とかつてない倍率となりました。希望すればほぼ入学することのできた定時制で、約500名の不合格者が出ることになるという異常な事態となりました。県教委と川崎市教委は学力検査後、募集定員枠を1クラス35名から40名に引き上げ、全県で225人の定員枠が拡大されました。異例な措置とはいえ、定員枠拡大は志願変更前に行うべきで、高い競争率を避け志願変更をした受検生には、不利益と不公平をもたらしました。

  一方、定時制三校を募集停止とし、横浜総合高校を新設した横浜市教委は、夜間定時制についてだけ、募集定員にかかわらず限りなく受検者全員に近い数の合格者を出すことを要請しました。しかし、これは志願変更した人に不利益をもたらすだけではなく、入試の公平性を大きく損なうものでした。結果的に戸塚高校の努力により、募集定員通りの142名が合格となり、別途新たに2クラス70名が2次募集とされました(この間の経過は『神奈川新聞』5月8日〜12日付参照)。

  この2次募集は、昨年10月末に発表された02年度入学募集定員にはまったく示されていなかったものです。そもそも、県と川崎市の募集定員枠拡大も、募集要項には触れられていない異例の措置です。

  しかし、「15の春を泣かさない」ためには、すでに発表した募集要項の募集定員を拡大することも必要でした。「なんとしても高校へ行きたい」という子どもたちの切実な気持ちに応えるためには、異例の措置をとってでも教育の機会均等を守り、就学保障をおこなわなければならないということが明らかになったのが、今年の入試の教訓ではないかと思います。                            


02年度入試の教訓を、今後の入試制度の改善に生かすことが必要


  今年度の定時制入試でこのような大量の不合格者が出たことは、横浜市立定時制三校の募集停止により、定時制の定員枠が140名も減少したことが、大きな要因であります。それとともに根本的な要因は、県教委の誤った全日制に対する入学定員の策定にあります。県教委は、全日制の計画進学率を94%に据え置いた上に、前年度入学定員枠を2000名も下回った県内私学(このため、昨年の実績進学率は91.2%にすぎなかった)に対し、実績(入学者数15,060名)に基づかず、前年より100名減じただけの17,300名の枠を保障し、その分公立高校入学者数の枠を大幅に減じました。中学卒業者数が2,758人減少するからといって、ほぼそれと同じ数の2,723人も全日制高校の定員を減らし、その大半を公立高校のクラス減でまかないました。長引く不況のもとで、経済的に私学へ行けない家庭が増えてきていることをまったく考慮しない定員策定といえます。

  結果的に、今年度は例年以上に全日制高校へ行けない子どもたちが大量に生まれ、それが定時制の入試の競争率を押し上げたわけです。すでに、ここで「15の春」を泣かせているのです。小森教育長(当時)の「門をたたいた子供に入口を閉ざしてはならない」という見解や白鳥教育部長(当時)の「『15の春を泣かせない』という言葉は、今も厳然と生きている」という発言(前掲『神奈川新聞』)は、定時制についてだけではなく、全日制の不合格者に対しても当てはまらないといけません。

  その意味で、入学者選抜制度改善の根幹には、「15の春を泣かさない」制度の導入が位置づけられるべきです。高校への入学を希望している人がすべて、希望した高校へ入学できるようにすること、これが「15の春を泣かさない」最終目標です。この目標に向かって、少しでも近づいていけるためには、具体的にどのような施策をとったらよいのかを真剣に考え、良い知恵を出し合い、大いに議論し合うことが必要です。


「15の春を泣かさない」ための提案


@1994年度入試以降、実績進学率が計画進学率を下回り続けています。その要因は、前年度の実績に基づかず、県内私学の入学定員枠が決められていることです。このような入学定員策定を根本的に改め、前年度実績に基づいた私学の入学定員枠を確定し、公立 高校の入学定員枠を拡大することです。それと同時に、計画進学率を上げることも必要です。

A上記のことを行い、必ず教育行政の責任において、実績進学率が計画進学率を下回らないようにすることです。それとともに、突発的事情等により計画通りいかない時にどうするかということを、入試制度のなかにはっきりと位置づけておくことが、「15の春 を泣かさない」ためにどうしても必要です。

  実績進学率が計画進学率を下回りそうな場合、緊急に公立の全日制が臨時の再募集を行うようにすべきです。これは、今回戸塚高校定時制が行った2次募集と同じことを、全日制でも実施するということです。定時制にできて、全日制にできないはずはありません。

B定時制においても、募集定員の5%以上の不合格者が出る場合には、必ず臨時の再募集を行うようにすべきです。

C今回の『中間報告』で示されている「学力検査を伴わない個性に応じた選抜の機会」を、定時制入試に新たに導入し、多段階選抜とすることには反対です。定時制については、これまでも調査書を考慮し、学力検査とともに面接を行い、総合的に合否を判定してき ました。入学の「評価尺度」を多元化し、多段階入試とするのではなく、一段階で総合的に判定することにより、公平性などの入試の機能を保つことができると思います。

D入試の日程については、@からBが確実に実施されるならば、全日制と同じ日程で行ってもよいと思います。いずれにせよ、現在の定時制入試日程を少し繰り上げ、中学校の卒業式には、卒業生の進学先が決まっているような日程にすべきです。

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