2001年2月10日
シリーズ 「教職員人事制度研究会 『検討資料』」を斬る @
「新たな人事評価システム」の導入は、学校教育そのものを破壊する
 
 昨年6月、県教育長から「教職員の人材育成および能力開発をめざした人事評価のあり方とその活用についての検討」を依頼されていた教職員人事制度研究会は1225日、「教育関係者意見聴取のための検討資料」(以下「検討資料」)をまとめ、関係各方面に意見を求めて送付した。
 そこで、その主題を明らかにして、その問題点とねらいを指摘し、次回に教育問題解決のあるべき方向などについて言及したい。
 「検討資料」の主題は、教育課題が山積しているが、教育現場は対応しきれていない。この解決と特色ある学校作りを進めるため、学校の教育力の向上が求められており、それを支援するには人事管理の見直しが急務である。人事管理の基本は、人材の育成をはかり能力開発につなげられる人事評価システムを整備し、活用することである。
 そうしてこそ、多様な人事管理思索の展開が可能となり、学校教育が直面する課題 ― 教育改革プログラムの推進、教育改革国民会議報告への対応、県立高校改革推進計画等 ― に応えられる人事管理のゆきとどいた学校作りが可能である。そのための「最終報告」を秋には行う、という点にある。
 
教育の仕事は、民間の「人事評価」では評価できない
 「検討資料」の基本的な問題点の第一は、教育問題の原因についての指摘や分析がないことである。教育政策や設備や学級規模、教職員定数などにそれを求める叙述は皆無である反面、検証無しに現場教職員の「管理、評価しないわけにはいかない実態」にこそ原因があるという前提をつくり論旨を展開している。
 次に、その教職員の専門性や営々と日々展開されているとり組みや蓄積される実績、それを通して培われている経験の成熟性などは、全く尊重も評価もされていないことである。
 そして第三点は、こうした教職員への一方的な「認識」は、キーワードの「評価」について、児童・生徒の人格の完成をめざして営まれる教育活動の「評価」とを同一視していることである。例えば、商品売上高による「業績評価」と、児童・生徒に対し責任をもって直接行われ、専門性や集団性、実践と研修に養われた人格的総体をもって、「児童の人格、才能、ならびに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限まで発達させること」(『子どもの権利条約』29条)をめざす教育の営みの「評価」とが同じであるわけがなく、そもそも客観的で公正な評価など不可能なことは自明である。
 第四に、公教育をめぐる諸法 ― 憲法、教育基本法、学校教育法、地方公務員法、教員の地位に関する勧告、子どもの権利条約などを全く顧慮しないどころか、これらに違反して「評価制度」を導入しようとしている。
 
導入のねらいは、偽りの「教育改革」の担い手つくり
 では、この「検討資料」の意図はどこにあるのか。まず第一に、教育政策が上意下達的に現場に貫徹することを意図したものである。具体的には国が進める「教育改革プログラム」を先頭に、教育改革国民会議報告、県立高校改革推進計画などの具体化と推進を担う学校体制つくりである。
 そのためには、教職員の集団の統制と分断の管理が要となる。全員で論議なしにいっせいに取り組む統制的な面と、組合的な団結は排除し、利己的に功績を競わせて計画遂行の効率を上げる分断支配的な面、この二面を合わせもつ管理が要諦となる。それにうってつけなのがこの「人事評価システムをベースとした人事管理」なのである。
 第二に、この「人事管理」は軍国主義教育に荷担した反省から設けられた、教育基本法の第10条の「行政の任務は条件整備に限定され、不当な支配の排除」の項にはっきりと違反した前提の上に成り立っている。これは国家主義的教育政策のスムーズな導入と貫徹を保障するものであり、憲法精神の実現の使命をうたった教育基本法の前文を否定し、憲法を改定する「壮大な計画」につながるものである。
 第三に、そもそもこの「人事評価」は民間企業で人件費削減の徹底をはかるために展開されているものを下敷きにしている。統制と分断の「人事管理」は、ごく一部の優遇措置と大多数の賃金抑制と格差賃金の導入を不可欠要因として具体化され運営されていくのは明らかである。教職員組合の道理ある要求は排斥され団結は弱められるという攻撃の下で、労働強化と雇用の非常勤化が「経費節減」を自己目的的に加速していく。ここに「検討資料」の眼目の一つがある。

この時期に「教職員の評価」を認める竹田邦明氏の「意見書」は問題である
 この「検討資料」について、神奈川高教組委員長竹田邦明氏が意見書をこの研究会に提出しているので、それについて基本的な点だけ指摘しておきたい。
 生徒・保護者・教職員の立場から見て、まだまだ議論すべき問題がある県立高校改革推進計画をいち早く積極的に評価してきた竹田氏は、先に指摘したようにこの計画の担い手作りとして、「人事管理」の見直しと「評価制度」の導入が図られていることに直面し、矛盾に陥っている。
 また、この時期に〔 公平・公正性、透明性、客観性、納得性、合目的性 〕、 〔 「数値的評価」と「賃金・人事面への反映」には反対 〕という5条件と2要件が前提になるなら、「教職員への評価はやむなし」とした意見の表明は問題である。
 この制度の導入では教育問題は解決しないどころか、教育そのものの破壊につながるものである。このことを保護者や県民に訴えていくような運動も含めて、「新たな人事評価システム」反対のたたかいの方向性の提起こそ、組合員はもとより教育現場、さらに今日の教育問題の解決を望んでいる人々が求めているものである。

シリーズ A 県教委、管理職は客観・公正な「人事評価」ができる立場にはない
シリーズ B 民間でも見直しが始まった成績主義評価を、今学校現場に導入することは、最大の誤り
シリーズ C 成績主義の拙速な導入ではなく、評価についてどのように考えるべきか、純粋に教育上の研究課題として十分な検討と論議を
 
トップ(ホーム)ページにもどる