2024年9月10日
【投稿】

神奈川、見せかけ「インクル」の矛盾を斬る

〜本校におけるインクルーシブ教育の実態〜

                          

神奈川県立高等学校教諭

週2時間「キャリア」の時間が設定されている

 本校では、週に2時間、インクルーシブの特別募集によって入学した生徒(本校職員間では「連携生」と呼称)のみが受講することができる、キャリアの時間が設定されている。

 キャリアの授業では畑で野菜を作って販売する、名刺を作る、など、養護学校の「作業」の時間を参考にしたカリキュラムを、担当の教員とインクルーシブ支援員が手作りで展開している。

 キャリアの授業は難しいテストや勉強がなく、達成感があるということで、生徒向けの授業アンケートでは概ね「楽しい」という評価を受けた。

 週2時間だけ、連携生が専用の「リソースルーム」に移動するということで、一般の生徒にも誰が連携生か分かってしまう。本校は、他者を攻撃しない穏やかな生徒たちが多いので、お互い普通に接しているので、連携生から「本校の居心地が悪い」、という話は聞いたことがない。

こんなの個別教育計画じゃない!!

@「個人内評価は行わなかった」
 本校では連携生には5段階の評定の書かれた成績通知書とは別に、個別教育計画を作成し、言葉による、個人内評価を行っている建前になっている。

 しかしながら、学習への取り組みが十分で、通常の評定で2以上が付く場合、個別教育計画の評価の欄は「個人内評価は行わなかった」と記入される。本来個人内評価と評定は別物である。個人内評価が行われないことなどあり得ない。

A抽象的な各科目の目標設定
「プリントをしっかり記入する」、「知識や技術を身に付け、制作に生かす」など、抽象的な目標が書かれていることがほとんどである。

 また、1学期の目標と同じものを2学期に設定する場合、「継続」と書かれる。目標が達成できていないということは、本来目標設定が不適切であったということだ。特別支援学校を経験した方になら言うまでもないが、「継続」などあり得ない。

B5段階で1がつくときだけの「個人内評価」
 一般の生徒の学習への取り組みが著しく悪い場合、5段階で1がつき、留年か進路変更が行われることになるが、連携生は個人内評価の目標を満たしたとみなし、2がつく。

 学習への取り組みが著しく悪い連携生には「成績は友だちに見せびらかすものじゃないよ」と忠告するのが教員としてできるギリギリのラインだ。何度も言うが本来個人内評価と5段階の評定とは別物である。

取り出し(個別指導)ができない

 「テスト前の1時間だけ、連携生を取り出してテスト対策しましょうか!」TT(ティームティーチング)のメインの先生が、サブの私に提案した。私は当然快諾した。

 しかし、管理職に確認したところ、「あくまで同じ空間で授業を受けることが県の条件なので、それはできません」
と言われ、実現することがなかった。

 連携生が、少しでもテストで良い点数をとり、自信をつけてもらえるための取り組みさえ否定するなんて、県は何を考えているのか。「人員を決して増やさない」という神奈川県の本音を垣間見た瞬間だった。

ルビ振り、拡大、別室などは全て2がつく

 本人が希望すれば、ルビ振り、拡大、別試験、別室受験などの支援をすることができる。

 しかしながら、本校では他の生徒との整合性を考え、同室、同試験以外の全てのパターンで受験した場合でも成績が2になると内規で決まっている。授業での取り組みを全く顧みないで、だ。

一般生の発達障害への支援が皆無

 一般生の中で、入学後に発達障害と診断されたり、教員が「発達障害ではないか」と気づくケースが散見されるが、現行制度上、入学時点で一般生の生徒に対しては、連携生とは別に扱うことになっている。

 まかりなりとも神奈川県が共生社会を標榜するのであれば、どんな生徒にも支援が行うことが当然ではないだろうか。勤務していて深い矛盾を感じる。

「勉強が分からなくても、とにかく座っていればいい」

 これは現場で本当に聞かれる教員の本音だ。私のサブで担当している数学の授業でも、九九までしかできない生徒が二次不等式の問題が解けずに固まっている。私の指導に従順に従う彼の姿を見て、養護学校の分教室の生徒の顔が浮かぶ。

 「きっと手先が器用な彼なら分教室で職業訓練を受け、自信がついて、力を伸ばすだろうな」 彼に、ただただ意味不明な数学の記号や数字を彼に写させることしかできない無力感から、授業のたびに教員を辞めたくなる。

「高校は適格者主義であるべきだ」

 これは私の持論だ。高校は、多くの時間を勉強に費やす場である。また、高校は義務教育ではない。

 入試(学力検査)は、入学後の授業について行ける知識があるかを問うために行われるのが当然であり、授業についていけない生徒を入学させないのは差別でもなんでもない。入学したいのならもう1年、勉強をすれば良い。

理想的なインクルーシブ教育

 高校入試に合格してくる生徒の中にも少なからず、発達障害等のために困り感のある生徒はいる。

 こういった生徒に対し、どの高校でも入学後に手厚い支援をするのが、インクルーシブ教育のあるべき姿ではないのか。障害があるという理由で学力試験を行わないのは、支援でもなんでもない。
ミッション・インクルーシブ  神奈川県立高等学校教諭
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