2016年1月5日


貧困状態にある生徒に就学援助を(下)



 前号では、神奈川県内の定時制や課題集中校において、生徒の貧困状態が極めて深刻であること、また神奈川の高校教育が学校納付金など私費によって支えられていることを示しました。
 今号では、授業料不徴収(無償化)の復活と義務制と同様の就学援助制度創設、および給付制奨学金拡充の必要性を明らかにしたいと思います。

授業料有償化の問題点と授業料不徴収(無償化)復活の運動を

 2009年度から2012年度までの中退率の変化を、日高教の「高校生の修学保障調査」(2013年度版)でみると、以下のように年度ごとに減少しています。


日高教調査 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度
全体 2.6% 2.4% 2.3% 2.2%
全日制 1.9% 1.8% 1.7% 1.6%
 

 また、全国私教連の調査で、「経済的理由による中退」は、2009年度から2012年度の間で、次のように減っています。


私教連調査
(経済的理由)
2009年度 2010年度 2011年度 2012年度
 全体  0.09% 0.06% 0.04% 0.04%
 

 この期間の中退率減少は、2010年度から始まった授業料不徴収(無償化)がもたらしたと考えられます。
 その一方、2014年度から世帯年収910万円以上の家庭の生徒には授業料が有償化されたため、それに伴う様々な問題が発生することになりました。前号と同様、県内の夜間定時制3校と昼間定時制1校、課題集中校2校から寄せられた問題点(2014年度)を紹介します。

・新制度が分かりにくいため、本来援助が必要な家庭(外国籍等)ほど免除申請ができずに、授業料未納になるケースが出ている。
・事務手続きが煩雑。外国につながる世帯への説明が難しい。
・一部に日本語を理解できない保護者の方がおり、世帯収入が910万円未満でありながら、授業料がかかるようになった例がある。
・入学時に免除申請した生徒は少なく、事務手続きに9月までかかった。
・学校事務の仕事量が格段に増えた。
 

 外国籍の生徒を含め受給資格のある生徒に対して、授業料に当たる「就学支援金」が確実に支給されるためには、申請手続きを簡略化するとともに、個人情報の保護を徹底し、事務職や外国語で説明できる教職員の増員が必要です。

 その上で、そもそもこうした問題点を根本的になくすには、授業料の不徴収(無償化)を復活することです。日本政府は、「中等・高等教育の漸進的無償化」を定めた国際人権A規約13条2項を33年間も留保し続けてきましたが、高校授業料の無償化を受けて2012年9月、この留保を撤回しました。

 ところが、2012年末の総選挙で復活した自公政権は、「低所得者向けの給付制奨学金」に必要な財源捻出を理由に、所得制限を導入し、2014年度から高校授業料を有償にもどしてしまいました。授業料の有償化は、留保を撤回した国際人権A規約13条2項に反しており、授業料の不徴収(無償化)を復活する運動を強化することが必要です。


公費負担を増加させ、私費である学校納付金の減額を

 貧困状況が深刻化するなかで、定時制や課題集中校において学校納付金の滞納が問題になっています。これらの学校では、卒業時に「学校納付金が滞納のままで卒業させてよいのか」、「会計報告はどうするのか」など、頭の痛い問題に悩まされます。以下に、日高教調査による学校納付金の滞納状況を紹介します(2010年度から2013年度までの4年間、9月期における学校納付金の滞納割合)。

2010年度 2011年度 2012年度 2013年度
全体 5.8% 5.8% 6.2% 5.6%
全日制 4.4% 4.4% 4.7% 4.2%
定時制 23.4% 23.7% 23.7% 24.6%
 

 こうした滞納に対して、学校納付金を完納していなければ「遠足や修学旅行への参加を認めない」という非情な措置をとっている高校が多く見られます(日高教調査で、全日制で62%、定時制で38%)。

 公教育は、公費で行われるべきであるという原則のもと、公費負担を増加させることにより私費である学校納付金を減らしていくことが重要です。


義務制と同じように就学援助制度をつくり、給付制奨学金を拡充せよ

 生活保護世帯(要保護世帯)の高校生には、義務制の就学援助制度にあたる「高等学校等就学費」(入学準備金、学用品、教材費、交通費、クラブ活動費など)が支給されています。しかし、義務制で就学援助受給者の9 割を占める準要保護世帯(住民税非課税などの世帯)の子どもたちは、高校入学後にはこうした就学援助が受けられなくなります。

 進学率が98%を超え、準義務教育化している高校にも義務制と同様の就学援助制度が必要であり、早急に創設すべきです。
 授業料有償化復活の理由とされた給付制奨学金については、年収910万円以上の世帯から徴収される授業料を給付制奨学金(「奨学のための給付金」)に当てるとされました。「奨学のための給付金」は、生活保護世帯や非課税世帯の高校生に支給されます。そのため、課税(所得)証明書などをそろえ申請することが必要になります。

 生活保護世帯に対しては年額、公立の場合32,300円(私立は52,600円)で、「高等学校等就学費」が支給されているため、この給付金は修学旅行費に当てられています。

 生活保護以外の非課税世帯に対しては年額第一子が、公立の場合37,400円(私立は39,800円)で、第二子以降は、公立の場合129,700円(私立は138,000円)です(以上は、全日制と定時制の場合であり、通信制については公立36,500円、私立38,100円)。

 非課税世帯については、「高等学校等就学費」が支給されていないため、この給付金は教科書費・教材費・学用品費などに当てられるのですが、37,400円(第一子、公立の場合)では全く足りないのは明らかで、増額が強く要求されていました。そのため、文科省は来年度予算概算要求で、公立129,700円、私立138,000円への増額を求めています。しかし、それでもまだ十分とは言えません。

 非課税世帯に対しては、義務制と同様の「高等学校等就学費」の支給が求められます。その上で、給付制奨学金については、「奨学金」の名に値するように、給付金額の増額や留年生徒も対象とするなど、今後いっそう拡充することを求め運動を続けていく必要があります。

貧困状態にある生徒に就学援助を (上)

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