2015年10月30日
貧困状態にある生徒に就学援助を(上)
昨年(2014年)7月、厚生労働省の「国民生活基礎調査」が公表され、2012年所得による子ども(18歳未満)の相対的貧困率(注)が16.3%と過去最悪を記録しました。子どもの6人に1人が貧困状態にあることになります。特に、一人親世帯の子どもの貧困率は54.6%と突出しています。
高校生に、貧困はどのように現れているのか、高校生の貧困を克服するために就学援助をどのように行っていけばよいのか、高校現場の例をもとに考えてみました。
注 相対的貧困率とは、等価可処分所得の中央値の半分より所得が少ない人の割合で、世帯全体の可処分所得を家族の人数の平方根で割って算出します
定時制や課題集中校における高校生の貧困状況
神奈川県内の夜間定時制3校と昼間定時制1校、課題集中校2校から、昨年度アンケートに答えていただき、明らかになった高校生の貧困について紹介します(それぞれ、1クラスにおける生徒の割合です)。
夜間定時制 昼間定時制 課題集中校 生活保護を受けている生徒の割合 17%〜25% 10%〜25% 5%〜10% 一人親家庭の割合 50%〜60% 50%〜60% 18%〜38% アルバイトをしている生徒の割合 50%〜90% 40%〜77% 40%〜76% 家庭の貧困や困窮が現れている例として、以下のようなことが挙げられており、深刻な状況にあることがわかります。
・学用品を購入できない。
・学校納付金や学年費の未納が多い。
・定期が切れ、交通費がないため欠席する。
・かなり遠くから自転車で通学する。
・学校行事(遠足・修学旅行など)や部活の練習試合・講習に参加できない。
・就職せざるを得ない。就職希望の生徒が多い。
・公募推薦合格を辞退することになった。
・保護者の収入が低く、また不安定なため、教育ローンが利用できない。結果として進学をあきらめるケースが多い。
・歯科検診で虫歯治療要請の紙を親に見せない。虫歯の治療をしない、できない。
・昼食をとらない。菓子パンやスナック菓子ですます。
・「一日一食しか食べてない」「昨日は食事していない」などの会話を耳にする。
・汚れた衣服をいつも着ている。風呂に入れない。破れた上履きや靴をいつまでも履いている。
私費によって支えられている神奈川の高校教育 ― 公教育は公費で
1年次に、保護者や生徒が払わなければならない学校納付金(2014年度)を、夜間定時制、昼間定時制、課題集中校について、それぞれ1校についての例を以下に示します。
@夜間定時制の学校の1例
・制服代 なし ・体操服 10,000円・上履き代 3,000円 ・教科書代 7,000〜9,000円
・学年費 7,000円 ・教育振興費 1000円 ・図書費 0円 ・環境整備費 0円
・安全振興費 600円(学年費に含む) ・PTA会費 2,000円 ・生徒会費 1,600円
・給食費 310円×日数 ・修学旅行費 20,000円計 54,200円(給食費を除く)
A昼間定時制の学校の1例
・制服代 0円か25,000円 ・体操服 10,000円・上履き代 3,500円 ・教科書代 5,000円
・学年費 8,500円 ・教育振興費 4,800円 ・図書費 1,200円 ・環境整備費 1,200円
・安全振興費 600円(学年費に含む) ・PTA会費 1,800円 ・生徒会費 1,800円
・修学旅行費 35,000円(計2年間で70,000円)計 93,400円(制服代を含む)
B課題集中校の1例
・制服代(男子38,800円 女子41,000円) ・体操服・上履き・グランドシューズ等 18,000円
・教科書代 10,000〜13,000円 ・学年費 10,000円 ・教育振興費 8,000円
・図書費 2,400円 ・環境整備費 1,200円 ・安全振興費 1,200円 ・PTA会費 4,800円
・生徒会費 4,800円 ・修学旅行費 40,000円(計2年間で80,000円)計 144,400円(女子の例)
この例でも、明らかなように本来、県費によって行われるべき県立高校の教育が、私費によって支えられています。県立高校では、各学校に支給されている県費(光熱費や需用費を含む維持運営報償費、役務費、旅費、委託料など)が少ないため、保護者や生徒から教育振興費、環境整備費、図書費等の名称をつけ、学校納付金を徴収しています。
教育振興費はプリント用紙をはじめとする消耗品、授業に使う実験器具や薬品、机、椅子、ロッカーなどを購入するのに当てられ、全日制では、生徒一人当たり年間約6,000円から10,000円の金額になります。環境整備費は、教育振興費に含めている学校もありますが、清掃用具や洗剤、校内の庭木等の整備に使われています。
神奈川県では、県費で支給される図書費が極めて少ないため(年間約20〜40万円、学級数によって異なります)、各校では私費で図書室に入れる書籍を購入しており、生徒一人当たり年間1,000〜3,000円です。
このように神奈川県では、本来県費で支給されるべき費用の多くを学校納付金として、保護者や生徒に支払わせています。公教育は、公費で行われるべきであるという原則に立ちかえることが必要です。
(つづく)