2013年7月12日


県がようやく「パワハラ防止指針」を策定
   

現場教職員の実状と意見を取り入れ「指針」の見直しと改善を! 

 神奈川県は昨年7月、総務局長名で、続いて9月には教育局の総務部長、教職員部長連名で「パワ−・ハラスメント防止等に関する指針について」を通知した。本県ではすでに2010年6月に県立S高校定時制で校長によるパワハラが発生しており、小紙(『連合路線の見直しを ニュース』107号 2010年12月4日)はいち早くその詳細を伝えるとともに、「パワハラ防止指針」の策定を求めてきたところである。

 以下に今回の「通知」に至る背景と、全国自治体の取り組みの特長に若干触れ、今回の県「指針」の問題点を指摘し、その見直しと改善を求めたい。        

先進的な自治体が「パワハラ防止」にとり組んでいる

 2010年度にパワハラ相談件数は急増、全自治体の総数で39,400件(都道府県労働局集計)、8年前の6倍である。この深刻な事態に、厚労省は2012年にパワハラの定義を公表したが、すでに05年の静岡県など自覚的な自治体ではこの問題に取り組み、それは現在、20に近い自治体と推測される。先進的自治体の特長は、「防止」を切実に追求、職場の具体的実情をふまえ実効性のある「防止指針」を策定している点である。京都府などは99年の「防止要項」を7次にわたり改定、多くの相談窓口と部署ごとに相談員を置き、詳細な「苦情・相談記録簿」を常備しているという。

 では、今回の県の「通知」「指針」は、どのような内容だろうか。(下資料参照)
 「通知」は冒頭にその趣旨を述べ、問題発生時には必要な措置を迅速かつ適切に講じること、必要あれば「公正・透明な職場づくり推進要項」(総務局)による行政課や人事委員会の相談窓口を利用するよう勧めている。「指針」は、目的・定義・用語・責務・周知啓発など13項目から成っている。
        

「パワハラ防止」には、この「指針」は不十分

 以下に、各項目に対する基本的問題点と見解を述べ、「指針」の実効性に疑問を呈したい。

○(目的)−「良好な環境」を必要とする理由と、「発生時の対処」が書かれていない。「良好な環境を促進し、業務を遂行できるよう」と補正し、「これに起因する問題が生じた場合に適切に対処するための措置等」と、「指針」の全体を包括的に明らかにするような記述が必要である。

○(定義)−「侵害する言動」の対象を明記する。つまり、「同じ職場の教職員に対して」を「背景にして、」の後に挿入する。「言動を行い」の後に、「それを受けた教職員の身分や健康に不安を与えること、あるいは」と続けたほうが、「パワハラ」の定義付けに合っている。

○(用語)(1) 「職員」は、教育委員会が公にした「指針」なので、「教職員」とするのが適切である。「職員」では「教職の専門性」を看過したものと思われかねない。さらに、「含む」の後に続けて、「含む、適用対象者をいう。」とするほうが「指針」の趣旨を明解にする。

(2)「職務上の権限や地位等」−「上司から部下」へのパワハラが90%という実態の下で、「上司から部下」のパタ―ンが一般概念である。「同僚同士、部下から上司へのものも含まれる」とあえて記述するのは、「定義」の本質を一般化して、焦点を不明確にすることにならないか。

(3)「児童・生徒の前での」に、「教職員」や「保護者」も加えるべきである。「叱責等は、慎重な配慮が必要である」は「叱責等は、慎むべきである」と直したほうが、曖昧さをなくする点でよい。

(4)「継続的に」では、「一過性」のものならよいのかという誤解を招くので避けたほうがよい。実際に、一回の恫喝的なパワハラで、休職に追い込まれたベテラン教職員の事例もある。

(3)〜(5)について−そもそも「パワハラ」被害の訴え、申告は、被害者当人の主体的な受け止め(感受性)をベースとし、それが問題の核心を成すものである。それが精神疾患に連動する場合も多いので、深刻な社会的問題ともなっているのである。にもかかわらず、これらの条文で繰り返し、「該当する・しない」「客観的に見て」「一般的で客観的視点で評価」などの字句を安易に多用している。誰が「該当」「客観」の評価判定をするのか。第一、この「指針」には、「問題が生じた場合に適切に対処するため」の第三者的機関の設置さえも明記されていない。

  これでは、パワハラ防止と被害者救済が目的のはずの「指針」は、信頼されないだろう。
○(職員の責務)/(所属長の責務)−この列記は逆である。先に、所属長の職責「職員が職務に専念できる、職場環境確保の責務がある」を掲げるのが常識である。所属長と教職員の「責務」は、同等でも同一でもない。この位置づけでは、教職員がパワハラの被害者になっても、「防止できなかったあなたの自己責任」として、際限もなく「責務」を問われる立場となり、救済されるどころではなくなる惧れ大である。つまり、(目的)は空文化してしまうと考えられる。

  ここは、責任の所在を曖昧にする働きを持つ(職員の責務)を削除して、真っ先に、(教育長の責務)「教職員および児童生徒の誰もが人権を尊重される良好な職場環境・教育環境を確保する責任がある」を掲げ、次に(所属長の責務)を列記することである。

【資料】   教育委員会におけるパワー・ハラスメントの防止等に関する指針

(抜粋・一部省略)

(目的)
1 この指針は、職員がその能力を十分に発揮できるような良好な環境づくりを促進するため、パワ−・ハラスメントの防止及び排除に関し、必要な事項を定めるものとする。
(パワ−・ハラスメントの定義)
2 パワ−・ハラスメントとは、職務上の権限や地位等を背景にして、本来の業務の範囲を超えて、継続的に人格や尊厳を侵害する言動を行い、職員の勤務環境を悪化させる事をいう。

(用語)
3 この指針において、次の用語の意義は当該各号に定めるところによる。
(1) 「職員」   一般職員のほか、非常勤職員及び臨時的任用職員を含む。
(2)「職務上の権限や地位等」   職位、職場での上下関係に加えて、技術や経験の有無に基づくものが含まれる。また、上司から部下に対するものだけではなく、同僚同士や部下から上司に対するものも含まれる。
(3)「本来の業務の範囲を超えて」  業務上適切な範囲を超えた「嫌がらせ」行為に該当するものをいい、例えば上司からの叱責については、それが適切な範囲内であり、客観的に見て、「嫌がらせ」行為といえなければ、パワー・ハラスメントには該当しない。
 なお、児童・生徒の目前における叱責等は、慎重な配慮が必要である。
(4) 「継続的に」  一過性のものではなく、こうした言動が繰り返し行われることを言う。
但し、その言動が刑法に該当したり、不法行為を強要する、または客観的に見て精神的・身体的に大きな苦痛を与えたりと認められる場合は、その限りではない。
(5)「人格や尊厳を侵害する言動」・・・・・・・なお、精神的苦痛を感じるか否かは主観的なものであるため、その判断に当たっては、一般的にどう受け止めるかという客観的な視点で評価する。

(職員の責務)
4 職場におけるパワ−・ハラスメントは、職場環境を悪化させるものであり、職員は良好な職場環境を維持するため、パワ−・ハラスメントの防止に努めなければならない。

(所属長の責務)
5 所属長は、良好な職場環境を確保するため、自身の言動に注意を払うとともに、日常の執務を通じた指導等により、パワ−・ハラスメントの防止及び排除に努めなければならない。


「パワハラ防止指針」による独自の相談窓口を

 この回では、県立S高校定時制で学校長によるパワー・ハラスメント事件が発生した2010年6月〜12月当時をふまえ、「指針」(周知・啓発等)6〜(相談窓口)8について、問題点を指摘したい。
 6については、(所属長の責務)5と内容が重複しているので、項目5,6を統合して充実させることを要望するにとどめておきたい。

「内部通報」用の「相談窓口」を転用するのは避けるべきである

 当時は、『県職員等不祥事防止対策条例』(2007.10.19公示・施行)に基づく「公正・透明な職場づくり推進要項」第3条規定の相談窓口(以下「公正・透明窓口」)だけで、パワハラ問題に対応する「相談窓口」はなかった。そこで、S高校定時制の教職員は組合に相談したが、結局のところ県教育委員会の姿勢に待つより他なかったのが実情である。

 その点で「指針」による(相談窓口)8の設定は一歩前進である。しかし、「公正・透明窓口」がそのまま「指針」の「窓口」になっている面があるのは否めない。S高校定時制の先生方は、パワハラの言動停止と謝罪を求めて「窓口」を探したのであって、公務員の*1「信用失墜行為」を「内部通報」する「公正・透明窓口」を求めたわけではない。

 さらに最近では、保護者からの苦情への対処や教育指導をめぐってパワハラめいた事案も発生している。こうした実情から、「指針」の「相談窓口」は、パワハラ事案に対応できる独自性をもったものにする必要がある。この点で(相談・苦情等への対応)7は、一般的叙述に終わっているので、(相談窓口)8に統合して以下のような点を勘案して、独自で具体性を持ったものにすべきだろう。

先進県を見ならった、実効性のある「相談窓口」が必要である

 「相談窓口」の「対応」には、被害者の受付「窓口」としての体制(態勢)が不可欠である。
例えば、複数の対応人員、被害者と同性の相談員の同席、相談場所の遮断性、相談員または本人が直接記入できる「相談・被害記録簿」を配置しておくなどは必須のことである。

 パワハラ行為は深刻に事態が進めば、被害者が再起不能に陥り、加害者や責任者は民法上、刑法上の法的責任を問われる場合もある問題なので、「指針」の(目的)1にいう、その「防止と排除」を第一義とした名実備わった体制を確立することが求められる。

 さらに付け加えるならば、この問題自体が、所属長(上司など)の地位・権限を背景として発生しがちなので、「良好な勤務環境を確保する」責務をもつはずの所属長がパワハラ行為を犯した場合、誰が(どんな機関が)公正で「適切な処理」をするのか。その体制も設けておかねばならない。
 また、「相談窓口」の担当者が、加害者のかつての部下であったり旧同僚の間柄であったりした場合、私情に左右された「不透明な処理」にならないよう、その対策も必要である。

 こうした点から、*2「第三者機関」を設けて、「防止・処理」体制の充実を図ることも今後の大切な課題である。因みに、A県では『△県職員倫理条例』、B県は「◇県の職員に係る倫理の保持に関する条例』などの条例制定による、独自の「パワー・ハラスメント防止対策」の「相談窓口」を設けている。

*注1 「信用失墜行為」
「地方公務員法」第33条で<職員はその職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。>と定められていることに反する行為をいう。

*注2 「第三者機関」
企業や組織などで、ある課題、事案について責任説明を果たし、透明性を確保するために部外者からなる構成員で設置する合議制の機関(組織)。パワハラ事案の場合も、透明性を確保し、客観的調査と適切な審判を期待して、部外者で、公正・中立な専門家からなる、合議制の機関とすべきである。

【資料1】            教育委員会におけるパワー・ハラスメントの防止等に関する指針


(周知・啓発等)  
6 所属長は、所属職員に対し、職場会議及び職場研修等の適切な方法により職場におけるパワー・ハラスメント防止について周知・啓発を行い、パワー・ハラスメントのない職場づくりに努めなければならない。

(相談・苦情等への対応)
7 所属長は、職員から職場におけるパワー・ハラスメントに関し相談・苦情があった場合は、迅速かつ公正な事実確認を行うとともに所属職員に対して、必要に応じた指導を行い、良好な職場環境の回復に努めなければならない。

(相談窓口)
8 「公正・透明な職場づくり推進要項」第3条に規定する公正・透明な職場づくり相談窓口は、同要項に基づき、職場におけるパワー・ハラスメントに関する相談・苦情を受けつけるとともに、適切な処理を行うものとする。



【資料2】      「公正・透明な職場づくり推進要項」より

(公正・透明な職場づくり相談窓口)
第3条 内部通報及び相談等に係る事務を処理するため、総務局総務部行政事務監察課及び教育局総務部行政課に公正・透明な職場づくり相談窓口(以下「公正・透明窓口」という。)を設置する。



パワハラ実態把握のアンケートの即時実施を

「防止に携わる職員」と「相談者の保護」をわかりやすく

 最終回は「指針」9から入る。この条項では、突然出てくる「防止に携わる職員」という存在がはっきりしない。「所属長」「中間職制」、職員間互選の「委員」、「窓口」など想定されるが、不明確である。明確化が、その職責の所在と、この「指針」の実効性を担保するうえでもポイントと考えられるので整備する必要がある。

 相談者のプライバシーの保護に「特に留意」とあるのは肝心な点である。ただ、次の10も当然のことであり、さらに踏み込んで、被害の補償と名誉の回復について、明快な条文にすべきである。以下は、既述の点を生かして改善していただきたい。

 

管理職を中心とした研修とともに、発生防止の職場総点検を

 パワハラを防止する前提となる要点は、「個人間の感情的なトラブル」と見るのではなく、「*能力発揮の阻害、*働く権利の侵害、*尊厳の毀損、などを伴う執務環境悪化の職場問題」ととらえることである。この点について、管理職を主な対象とした研修を行い、教職員の意見を広く募ることも必須である。

 これをベースにして職場の総点検と「防止」態勢も話し合われる必要がある。その際に、トップ・ダウン的に職場に「堆積」している管理統制的な「教育政策」が、教育活動の展開に正当性をもっているものか、一つ一つ検証する意見交換の場があってもいいのではないか。なぜなら、「自己実現の阻害」
は「パワハラ」発生の温床の一つと考えられるからである。

 同時に、県には今回の「指針」の再検討と、パワハラの具体的事例の把握のための現場教職員に対するアンケートを直ちに実施して、今回の措置の充実を図ることを求めたい。

【資料】             教育委員会におけるパワー・ハラスメントの防止等に関する指針    


(ブライバシー保護及び 不利益な取り扱いの禁止)
9 職場におけるパワー・ハラスメントの防止に携わる職員は、職場におけるパワー・ハラスメントに係わる職員の情報が当該職員のパワー・ハラスメントに属するものであることから、その保護に特に留意しなければならない。
10 職場におけるパワー・ハラスメントの防止に携わる職員は、職場におけるパワー・ハラスメントに関して職員が相談し、又は苦情を申し出たことを理由として、当該職員にとって不利益な取扱いをしてはならない。

(当該職員以外の職員からの相談・苦情への対応)  
11 当該職員以外の職員からの職場におけるパワー・ハラスメントに関する相談・苦情への対応については、前記7から10に準じて取り扱うものとする。
(総務課長等の責務)
12 総務課長及び県立学校人事課長は、所属職員に対し、適切な広報・研修等を実施し、職場におけるパワー・ハラスメント防止について周知・啓発を行う等、この指針の目的を達成するために必要な措置

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