第3話 アフロの帰宅

「はぁ…」

家に帰る足が重い…それは愛する妻に降格を伝えなければならないからだろうか?
それとも周囲の人の視線が気になるからだろうか?
どちらにしても彼にとってプラスであることはない。

帰りの通勤電車。読書しないことをこんな形で初体験するなんて…窓に映る髪から目が離せなかった
いや、仮に本を開いたとしても、集中できないだろう。周囲は自分の髪を覗いてくる

「ねぇねぇお母さん、あの人みたいなかみがたをアフロっていうんでしょう?」
「コラ、あんまり大声を出すんじゃありません!…アフロの人に失礼でしょ」
心にグサっとくる言葉、それを注意する言葉は逆効果、さらに彼をおちこませた

もうほっといてくれ…彼は大声で叫びたかった、しかしそんなことをする力も勇気も今の彼にはなかった

「はぁ…」

色々考えているうちに自宅についてしまった
まだ何も考えてもいないのに

・・バタン

「おかえりなさい…」

ドアを開けると目の前に愛する妻が、少し不安げな表情をしている

(すぐ伝えるべきか…いや後でもいいのではないか?…しかしどちらにせよ伝えなければいけないし)
彼の頭の中はわた飴のようにぐるぐる…ぐるぐる…そのメリーゴーランドを止めたのは

「ごめんなさい!」

予想外の彼女の一言
よく見つめると彼女の目には、あふれんばかりの涙が溜まっている

「…え?」
怒られる覚えはあっても、謝られる覚えはない
彼は口をぽかんとあけ、間の抜けた声を発した

「私のせいでアフロになったのよ…私が"これで君も直毛クン"っていう得たいのしれない商品と間違えて
"これで君もエアロ・スミスだ!”っていうてもっと得体の知れない商品を髪にぶちまけたから…
私・・クラウドがすごく大切にしてた髪をめちゃめちゃに……」

全てを話し、彼女は泣き崩れた
彼は彼女のくしゃくしゃになった顔をハンカチでぬぐいながら優しく抱きしめた
「ほらほら…可愛い顔が台無しだ」
「クラウド…」
「俺に罰があたったんだよ…ほら俺、最近スタイリングに夢中で一緒に食事してなかったからさ…」
彼は頬にお詫びのキスをして、つばをグッと飲み込み再び口を開いた
「俺もさ、謝んなきゃいけないことがあるんだ」
「今ならなんでも許してあげるわv」
「実はヒラ社員に降格した…」

「なぁんですって!!!」

彼女は顔を真っ赤にさせクラウドに詰め寄る。
さっきまでの甘いムードはどこにやら…

「今なら何でも許してくれるって…」
「それとコレは別よ、別!今月ピンチなのクラウドも知ってるでしょ!」
「そんなにお金使ったか?」
「………」
やぶへびだったか…
彼は後退した。が、エアリスはその2倍の速度で前進してくる
逃げられないことは目に見えている、彼は止まった
「俺が整髪剤でちょっと使いすぎてたかも…」

「ちょっとですって!」

「すいません…僕が使いすぎてました…あのごめんなさい、本当にごめんなさい」
早口で詫びると
「そこまで言うなら許してあげてもいいけど…ただし!」
「ただし?」
「今度の日曜日デートね♪」
「日曜日は仕事が…」
「もちろん休暇とるわよね、ね?ク・ラ・ウ・ド!」
「………(怖いよエアリス)」

あまりの恐ろしさで彼は
蛇に睨まれた蛙のように動かなくなった…とさ

続く

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あとがき

もしもあなたの旦那が突然アフロになったらどうします?

カッコイイ!と素直に思えるアナタはエライ!

次回はデート編だす