[友よ]

明転

「すいません遅れました!って誰もきてないじゃないのよ」
ヒロシ少年は1分遅れで練習場所についた。しかしそこには誰もいない、コーチすらまだ
気が抜けた少年が深呼吸をしていると、ドタドタドタという足音と共に真面目そうな少年がやってきた
「遅れました!」
「あっ!カシワギ君遅いよ〜」
「ゴメンゴメン、ところでアイザワは?」
「まだきてないけど」

バタバタバタ!

さっきより大きな足音と共に少し大柄な少年が、少し息を切らしている。
「あっ!アイザワ君遅いよ〜」
「悪いな、それよりまだコーチはまだ来てないみたいだな、セーフ、セーフ!」
アイザワ少年はあたりを見回し、鬼がいない事を確認してから微笑んだ。
「そういう問題じゃないだろ!練習に遅刻するなんて何考えてるんだい」
「まぁまぁいいじゃないか、それよりストレッチをしよう」
こういう時に調停をするのは大抵の場合カシワギ少年である。

「とことでヒロシ今日はやけに嬉しそうじゃないか?」
ちょうど肩の筋肉を伸ばしている時、アイザワ少年は微笑をくりかえしているヒロシ少年に気づいた。
「わかる?実はおじさんにあったんだ」
「おじさん?どうせしょうもないホームレスかなんかと知り合いになったんだろ」
「違うよ!おじさんは確かにホームレスだけど立派なストリートミュージシャンなんだよ」
ヒロシ少年は少し怒った口調で言った。
「と言う事はその人歌手なんですね!あってみたいなぁ」
ミュージシャンという言葉を聴き、目を輝かせながらカシワギ少年が首をつっこんできた。
彼はテニスの傍らギターを引く事を趣味にしている。

「あっ!コーチだ」
カシワギの声を合図に皆が整列しコーチを迎えた。
「よし!全員揃ってるな、まずはランニング」
「ウッス!」
3人が黙って走り出すと
「声出せ!」
さっそくコーチのゲキがとんだ。
「ファイト、ファイト」
「声が小さ〜い!」
「ファーイト!ファイトォ!!」

「よし終了」
その言葉はちょうどグラウンドを10周し終わった頃、ヒロシ少年はすでに疲れきっている様子だった。
一晩のみ明かした酔っ払いのように千鳥足でフラフラしている
「では今日はまず乱打から始めるカシワギとアイザワはコートに行け、それとヒロシはここに残れ」
2人がコートへ向かったのを確認してから少し眉間にしわをよせながらコーチは口を開いた
「お前はランニングだ」
「なんでですか!僕にも練習させてくださいよ」
ヒロシ少年はコーチにつかみかかる勢いで食らいついた
コーチは少年を平手打ちで突き飛ばしこう言った
「お前は体力がない、そんな状態で練習しても何の意味もない、つべこべ言わず走れ!」
ヒロシ少年が無言で走り始めるとコーチのゲキがとんだ
「声を出せ!声を」
「ふぁいと…、ふぁいとぉ」
「声が小さい!ふざけてんのか」
ヒロシ少年の蚊の泣くような声はさらにコーチの怒りを買った
彼は最初のランニングですでに疲労が極限に達している。声を出せと言う方が無理な話だ
「ふぁいと、ふぁいとぉ」
「まだまだ小さい!やる気ないようだな」

「ファイト!ファイト!」
コーチの拳が振り下ろされそうとした時、大きな掛け声と共に2人の少年がヒロシ少年の後尾へと
「お前ら、コートで練習だといったはずだ」
いったん振りかけた拳を止め、コーチは2人の少年を睨んだ
「俺達も一緒に走ります!」
2人がコーチの方をものすごい剣幕で見ると
勝手にしろ、と言わんばかりにコーチは腕を組んで口をつぐんだ
「みんなありがとう」
「何言ってんだ俺達仲間じゃないか」

3周ほどすると、黙ってみていたコーチが近づき大声で叫んだ
「うんうん、これこそ青春!よし俺も走るぞ」
突然の全力疾走、3人はあっという間に追い抜かれたが
「うわっ!!!!!」
ゴキッという鈍い音共にコーチは倒れた
「大丈夫なのか?」
アイザワ少年が聞くも返事がない
「大丈夫ですか?」
ヒロシ少年にも応答せず
「誰か救急車!」
カシワギ少年の判断により、彼は病院へと運ばれた

暗転

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