[友よ]

人にはいくつもの出会いがある
そしてその中には自分の人生を大きく変える大切な出会いがある
あれは今から何年前の事だろうか…

「じゃあね、僕部活あるから…うわっ」

放課後、友と別れたヒロシ少年は足に今まで経験した事が無い系統の感触をおぼえた
下を見ると一人の汚い格好の中年男性が横たわっている
近くにはいわゆるダンボールハウスが見える

「おじさん!こんなところで寝ていると風邪引くよ」
「おじさんはねぇ寝てたんじゃない、人生に疲れ果てて横になっていただけさ」
その男は軽くため息をつきながら答えた

「おじさんひょっとしてホームレス?」
「失礼な、これでも僕はれっきとしたストリートミュージシャンなんだよ!」
男は髪をたくしあげてポーズをきめてみせた
汚い格好とミスマッチで正直あまり決まっていなかったけれども
「と言う事はおじさん歌手なんだね!でも歌手って感じしないなぁ」
「よく言われるよ、ところで君はテニスをしているのかい?」
男は少年の手にテニスラケットが握られているのを見て言った
「そうだよ、いつかプロになって世界のヒロシって呼ばれるようにがんばるんだ」
ヒロシ少年は目を輝かせながら言った
「そいつはすごいな、その時は電気屋のテレビで応援させて貰うよ」
「ありがとうおじさん!あっ!もうこんな時間だ、じゃあ僕部活の練習があるから」
少年は安物の腕時計を見ながらあわてて走っていった

「将来の夢…か」

男はぼやいた後、うなだれるように顔を下に向けた

暗転(続く) 

トップに戻る] [小説置き場に戻る