『レクイエム』考

4.レクイエム考
 
V.セクエンツィア SEQUENTIA
 
(B)レクス・トレメンダエ Rex tremendae (ト短調 4分の4拍子)

 前章とは打って変わって、烈しい和音とその落下で始まる(譜例3)。モーツァルトとしては速度の指示は書いてないが、ジュスマイヤーはgrave(ゆるやかに重々しく)という指示を出している。トロンボーンの声。弦の引きずるような付点リズム、和音、そしてまた落下。"Rex"という叫びが4声部によって三度高らかに唱和され、王に慈悲を求める。やはり、弦のひきずる付点リズムと跳躍あるいは落下が印象深く展開されていく。18小節pianoでソプラノとアルトが "Salva me,"(私を救い給え)と歌い、それに応えてバスとテノールも"Salva me,"と繰り返すところはこの楽章の言わんとする個々人の弱さと王の力の対比が色濃く現れている。蘇った死者たちは、誰の救いを求めるのではなく、自らの、ただ自身のみの救いを求めているのだ。最も美しいのは20小節目の唱和、"Salva me, fons pietatis."(私をも救い給え、慈しみの泉よ。)の部分であろう。いわばウラーニア的とでも言うべきか。


譜例3 弦の第1小節の落下と、引きずる付点リズム

 

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