『レクイエム』考

4.レクイエム考
 
V.セクエンツィア SEQUENTIA
 
(@)ディエス・イレ Dies irae (Allegro assai ニ短調 4分の4拍子)

Dies iraeとは「怒りの日」という意味であり、"Dies irae dies illa, Solvet soeclum in favilla: Teste David cum Sibilla."(ダヴィデとシビッラの証のとおり、世界を灰に帰す、その日は怒りの日である。)"Quantus tremor est futurus, Quando judex est venturus, Cuncta stricte discussurus! "(すべてを厳正に糺すために、審判者が来給うとき、人々の恐れはいかばかりか。)というテクスト内容に沿った、強烈に速い楽章である。人々が旋律にわななき、神の怒りと裁きが降り注ぐ情景は、あまりに烈しい。この冒頭の旋律は、〈キリエ〉のあの主題(「E−C‐F−♯G−A−」)の変形と考えられる。クラリーノとティンパニはひっきりなしに現れ、裁きを与える。途中、稲妻が落ち、岩が砕けるような情景を思わせる部分もある。このすさまじい雰囲気は、弦による旋回が重要な役割を果たしているのだが、40小節目からはじまる、バスと残り3声部との対話のところで、3声部の裏で第一ヴァイオリンのが奏でる二度の旋回は、圧倒させられる。テンポのしっかり刻まれる52小節(バイヤー版ではオルガンの高音が異様な相をみせている)、弦のすさまじい怒涛の旋回が現れる56小節は素晴らしく、68小節で最後に弦によって置かれるEの音は余韻を残す。
 

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