『レクイエム』考 |
4.レクイエム考 |
X.サンクトゥス SANCTUS (Adagio ニ長調 4分の3拍子、Allegro 4分の3拍子) |
第1小節目から、ティンパニは高らかに響き、弦は跳躍し同音を16分音符で刻み、一聴して華やかな(ハイドン張りのオペラの仰々しい)コーダという印象を皮肉にもうける。『レクイエム』全曲中、ニ長調というシャープ系の調性を取り入れたのが、これ一曲であるというのもあろうが、少し異色の感じもする。"Sanctus,Sanctus,Sanctus"
(聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな)と黄金に歌い上げて、"gloria
tua"とで締めくくり、〈ホザンナ〉部分に連続するが、急にバス声部とファゴット、オルガンとチェロだけとなって、それから次々に声部と楽器が加わってゆき、膨張してゆき、盛り上がってすぐに終わってしまう、全体として2分にも満たない曲である。 実は、後の〈ベネディクトゥス〉とともにこの2曲はジュスマイヤーの創作ということになっている。他の曲に比べると、個として取り出して聴いたとき、生彩が他と比べて欠けるのも事実であろうし、スコアを見ても全体的に凡庸と言われてもしかたがないものである(特に〈サンクトゥス〉)。しかし、私はこの曲が、今まで『レクイエム』を構成し、大きな違和感を感じさせなかったというジュスマイヤーの作曲の調和性にも評価したい。モーンダーは容赦なく切り捨てて、『レクイエム』を未完としたが、私はこれらの曲が全体と調和している限り、歴史的背景を考え合わせて、後世に残すべきだと思う。 |