『レクイエム』考

4.レクイエム考
 
W.オッフェルトリウム OFFERTORIUM
 
(A)ホスティアス Hostias (Andante 変ホ長調 4分の3拍子)

 まろやかな3拍子をオルガンとチェロが優しく刻むなか、声楽は"Hostias et preces tibi, domine"(主よ、賛美のいけにえと祈りを)と歌いかける。穏やかな安息が現れるのは、木管と弦による自然の巨大な包む優しさの表現である。横につながる自然の空間の音色を、低音部が縦としての時間を刻んで行くというのは見事な調和である。しかし、ときに自然は牙をむき(23小節)、また零れ落ちるほどの贈り物を人に与え(特に美しい27小節目)もする。その前に人はただ小さいものとして、嘆き許しを乞うたり、祈りを捧げたり、賛美したりとさまざまにするのであるが、すべて神という巨大な自然存在の前にひれ伏すこと前提である。46小節からの短調部分は、独りの人間のぼんやりとした不安を描き出しているようで、実に感慨深く、印象的である。この曲も前章と同じフガートに続き、解決を得る。オッフェルトリウムを閉じる。
 

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