船の水中騒音影響・・・?
興味のある方やお悩みの方はご相談ください。疑問や質問にお答えいたします。


  • 船の水中騒音とは?
  • なぜ問題になっているの?
  • 測れるの?
  • 予測できないの?
  • どうやって低減するの?
  • 海運業界の対応は?
  • サービス内容
サービス 解説

船の水中騒音とは?

  • 船体外板を通して水中へ放射されるエンジン等の機械騒音、プロペラキャビテーション騒音や船体との摩擦による流体騒音があります。
  • 船速が大きくなったり、貨物の搭載重量が増えたり、波浪中で抵抗が大きくなると、プロペラキャビテーションの発生音が支配的になります。
  • プロペラキャビテーション(図-1)は、プロペラ翼が船体後部の遅い流れ領域を横切る際の圧力の増減によって誘起されます。キャビテーションは水中騒音スペクトルにおいて、広帯域騒音と翼通過周波数(翼数×回転数)の高調波成分のピークを生じさせます(図-3の赤丸印)。広帯域騒音は、水中における膨大な量のキャビテーション気泡の成長・収縮のリバウンドと、さらに崩壊により引き起こされます。高調波成分のピークは、プロペラ一回転中のキャビテーションの体積変動によって引き起こされます。
  • 模型1と実船2のプロペラキャビテーション

  • 実際の水中騒音の測定結果3を紹介します。記録された水中騒音(Sound)、1/3オクターブスペクトラム(図-2)、1Hz帯域の狭帯域スペクトラム(図-3)を示しています。エンジン出力がHALFからFULLへ増加するとともにキャビテーション発生により急に騒音レベルが増大していることがわかります(図-2)。また、キャビテーションの体積変動による5次までの高調波成分のピークが明瞭に示されています(図-3)。水中騒音を聞くと「バタバタ」という音が聞こえてくると思います。
  • Sound

    No. 3 HALF

    No. 4 FULL

    No. 6 NAVI-FULL

    小型貨客船から放射される水中騒音の1/3オクターブスペクトラム(CPA:Closest Point of Approach 最接近距離

    最大出力時の狭帯域(1Hz毎)スペクトラム

    なぜ問題になっているの?

  • 海洋構造物設置時の杭打ちの音、ソーナーの発信音(図-4)、海底地層探査時のエアガン音の他、船舶が水中へ放射する音も問題となっています。
  • 船舶水中騒音もクジラさん、イルカさんやアザラシさんなどの海洋生態系に影響を及ぼすとされています。
  • 軍用ソーナーが原因ではないかと疑われているクジラの座礁4

  • 意思伝達ができないので直接的な影響を明らかにすることはできないのですが、航行船舶数の増加にともなう個体数の現象、近付いて来た時の挙動、ホルモン等の生理現象の変化などが指摘されています。海洋での調査の他、水槽中に記録した船の水中騒音を再生して調査した結果も報告されています。
  • 海洋生物が捕食やコミュニケーションの際に発生する音と彼らの可聴周波数帯域、さらに船舶などが発生する人為的な音の周波数範囲を比較して図-5に示します。鯨類等は周波数範囲が広く人為的騒音源と重なっていることがわかります。以下は、最近の船舶水中騒音の海洋生態系への影響に関して研究された成果の一例です。
  • 海洋生態系の音の生成と可聴範囲、および人為的水中騒音源の周波数範囲5

  • 哺乳類については、イルカさんの摂食中のコミュニケーションは妨げられているように見えるが、社会的コミュケーションは妨げられていない。また、ザトウクジラさんのような鯨類の生態に悪影響を与えているという明確な結論は得られなかった。
  • 甲殻類については、水槽内で再生音に暴露されたイセエビやクルマエビの挙動変化だけでなく、血液やたんぱく質濃度、さらにはDNAなどの生理学的変化を調査して、船舶水中騒音がストレスを与えているとしています。カニへの影響も調査されています。
  • 無脊椎動物については、ハマグリの大事な摂取機構である堆積物を再構成する能力が騒音の影響を受けることが見いだされました。アメフラシ、コウイカ、ムラサキガイへの影響も調査されています。
  • 魚類については、海中でも同様の挙動を示すかについてさらなる研究が必要ですが、水槽内で騒音を再生したところ、小型魚は捕食者からの防御や卵を守ったりすることに対し異なる挙動を示すことがわかりました。その他、サンゴ礁に生息する魚、ウナギの捕食者に対する反応、シーバス、トゲウオやタラへの影響が調査されています。
  • 2016年~2018年にかけて、冬季に繁殖するために小笠原諸島へ集まるザトウクジラさんへの影響が調査されましたが、船舶水中騒音がザトウクジラさんのような鯨類の生態に悪影響を与えているという明確な結論は得られませんでした。6
  • ザトウクジラの回遊、ピンク:冬の繁殖場、ブルー:夏の餌場 (https://bonin-ocean.net/humpback-whale

  • 国際海事機関 (IMO) は最近、これまで認識も遵守もされていなかった 2014 年の Ship URN(Underwater Radiated Noise) ガイドラインの改訂版を承認しました。 現在、改訂されたガイドラインのエクスペリエンス構築フェーズ (EBP) に入っています。 次のステップも計画されており、部分的な海域に限り、URN レベルが制限される可能性があります。
  • 北極海航路が開拓されたため、アザラシ等への影響を問題視する動きがあります。
  • 測れるの?

  • ISOや海外船級協会のガイドラインでは図-7に示す計測法7が示されていますが、時間や費用が掛かることや測定値のバラツキの評価が問題です。
  • 計測機器はもちろん気海象や海底地質による計測の不確かさ8に注意する必要があります。
  • 簡便な計測法の開発が求められており、ハイドロホン(水中マイクロホン)を直接船体に取り付けて計測する方法や振動計測結果から水中騒音を予測するオンボードモニタリング法9が研究されています(図-8)。
  • 船舶水中騒音計測方法7

    URN monitoring technology based on onboard measurement

    予測できないの?

  • Brown などの計測データ分析に基づく簡易推定法、キャビテーション水槽試験法や理論計算シミュレーション法がありますが、まだ精度向上が求められている段階です。
  • 本ホームページの予測法で紹介したBrownの式は、実船の水中騒音計測結果から導出された経験式であり、約100Hz〜10kHzの広帯域における水中騒音の上限レベルを推定できます。実船計測結果と推定結果が良く一致することや、減速運航による水中騒音低減効果についても、良好な推定精度を有していることが確認されています10
  • Ross の式等の船長と船速から予測する方法11もあります。
  • カナダの ECHO プログラム12や日本船舶技術研究協会が実船の計測データベースから推定する回帰分析モデルを提案しています13
  • どうやって低減するの?

  • コンテナ船5隻から放射される騒音レベルが、図-9に示すプロペラボスキャップフィン、船首バルブの交換、エンジンのディレーティング等の近代化改修によって6〜8dB低くなったことが紹介されています。14
  • プロペラボスキャップフィン15と船首バルブ16

  • Vard レポート17は商船からの水中騒音を軽減するために現在利用可能な技術ソリューションをレビューして、削減方法やその理由、どれだけ削減できる可能性があるか、どの周波数に対してか、コスト見積り、すぐ適用可能か、欠点と利点(ノイズリダクション以外)、さらに適用可能な船の種類などの詳細がリスト化されており、船主、オペレーターや造船所等のステークホルダーが参照しやすい優れた最先端技術情報図書となっています。
  • 国内外の動きは?

  • カナダはシャチを保護するために、バンクーバー港へ入出港する船が静粛化の対策を施していたり、船級協会のノーテーション(船級符号の付記)を得ている場合は入出港税の減免を実施しています。18
  • 米国ロサンゼルス港近くのサンタバーバラ海峡では2014年から10ノット未満に減速させる現金報酬・インセンティブプログラムが行われて、参加船舶から約 5dB の音響曝露レベルの有意な減少が確認されました。
  • 船級協会の対応は?

  • 海外船級協会では独自のガイドラインを発行しており、最近 DNV が商船初のノーテーションを発行しています。日本海事協会でもガイドラインを2023年10月に発行しました。
  • 基準ノイズレベルは各機関によって異なっていて、フランスBV 規則が最も厳格です(図-10)。
  • 各船級協会の1/3オクターブしきい値
    ABS,DNV,RINAは放射音圧レベル(RNL)、BV,LRはモノポール音源レベル(MSL)19

    今後やるべきことは?

    船舶水中騒音の海洋生物への影響に関する多くの説は定量的な証明が難いため、生物多様性の維持および技術者の観点からは、船舶そのものの騒音レベルを緩和する対策が必要になります。海洋生態系を保護のために、例えば次のアニメーションのようにならないために、以下の項目からなるノイズ管理計画が求められます。

  • 海洋保護海域の設定
  • URN目標の設定
  • ベースラインとなるURNの予測および計測
  • URN低減アプローチ
  • GHGとの調和検討
  • URNモニタリングおよび評価
  • Acknowledgements: Japan Ship Technology Research Association (JSTRA) , The Nippon Foundation References: Whale Song: Australian Government Department of the Environment and Energy www.environment.gov.au/marine/marine-species/cetaceans/whale-dolphins-sound

    サービス内容

  • 計測法や実施計画のサポート解説
  • 予測法の提供、予測の代行
  • 各種低減対策の提案
  • オーシャンノイズはSHORTCUT CFDの日本代理店で、CFD による推進性能予測や省エネ付加物等GHG 対策のサポートが可能です。 著作権 - オーシャンノイズ
  • 参考文書

    1. (株) 三井造船昭島研究所、 akishima-labo.co.jp
    2. Hiroi, T. et. al. (2019), PS-2 外航ばら積み船における実船流場計測及び水中騒音、船尾変動圧力計測 PDF
    3. 日本船舶技術研究協会 (2017), 船舶水中騒音の海洋生物への影響に関する調査研究(水中騒音プロジェクト), 2017年6月
    4. NOAA (2020), Beaked Whale Strandings in the Mariana Archipelago May Be Associated with Sonar, 記事,(Feb. 19,2020)
    5. Duarte, C.M et. al. (2021), The soundscape of the Anthropocene ocean, Science 371(6529), URL
    6. Tsuji, K. et. al. (2018), Change in singing behavior of humpback whales caused by shipping noise, PLoS ONE 13(10): e0204112, URL
    7. ABS (2024), Guide for the Classification Notation Underwater Noise and External Airborne Noise, Jun 2024 pp.32, PDF
    8. ITTC (2017), Recommended Procedures and Guideline Underwater Noise from Ships, Full Scale Measurements, ITTC Recommended Procedures and Guidelines 7.5–04,04-01, PDF
    9. Republic of Korea (2022), Monitoring technology of underwater radiated noise from ships using onboard noise measurement, SDC 9/INF.9, 18 November 2022
    10. Shiraishi K., et. al.(2023), Verification of simplified underwater radiated noise estimation tool using Brown’s formula, inter-noise 2023.
    11. Ross, D. (1976), Mechanics of Underwater Noise,Pergamon Press Inc.
    12. MacGillivray, A. et. al. (2020), ECHO Vessel Noise Correlations Study, Final Report, Submitted to the Port of Vancouver, PDF
    13. Sakai, M. et. al. (2023), Statistical analysis of measured underwater radiated noise from merchant ships using ship operational and design parameters, J. Acoust. Soc. Am. 154, p.1095-1105, URL
    14. Gassmann, M. et al. (2017), Underwater noise comparison of pre and post retrofitted MAERSK G class container vessels, Scripps Institution of Oceanography, MPL TM 616
    15. MOL (2017), 「PBCF」プロペラ効率改善装置が2017年日経地球環境技術賞 受賞 ~3~5%の燃料消費量削減効果、3,200隻超の販売実績を誇る地球環境保全への取り組み~ 記事
    16. kaigijyuku.com (2017), バルバス・バウ, 記事
    17. Kendrick, A. et al. (2019), Ship Underwater Radiated Noise, Report prepared for Innovation Centre of Transport Canada by Vard Marine Inc., Report 368-000-01, Rev. 5, PDF
    18. Port of Vancouver (2023), Receive up to 75% off harbour due rates at the Port of Vancouver through the EcoAction Program, PDF
    19. Hannay, D. et al (2021), Study of Quiet Ship Certifications, Analysis using ECHO Ship Noise Database, Transport Canada Pub. No. TP 15478E, p.34. PDF