sakura & ichiro

同窓生のお宅、お店、縁の地、お勧めのスポットetc
どこかで見たような「さくら」と「一郎」が皆さんをご案内します

第八話

=高原で芸術を!=

登場人物(注意:さくらと一郎は実在の人物ではありません)
さくら----目黒区緑が丘出身。11中を卒業後、何をしていたかはよく判らないが、 ステキなだんな様と巡り合い、カワイイ二人の子供達に囲まれて幸せな日々をおくる。

一郎----目黒区自由が丘出身。11中を卒業後、自分を磨くため職を転々とし、22歳からは遠洋マグロ漁船の乗組員として世界の海でマグロを追う。生活のほとんどを船の上で過ごすこと15年。その後、手にした資金を元手に事業を起こし、今は目黒に住む。


物語(注意:さくらと一郎はフィクションですが、同窓生との話はノンフィクションです)

この日も、一郎の帰宅は遅かった。午前1時をまわっている。
すでに床に就いている愛妻と一人息子の誠之助を気遣い、音をたてぬよう冷蔵庫を開け、寝酒のつまみを捜す。
・・・お、チクワがあるじゃないの・・・
一郎はチクワとワンカップ酒をそっと自分の書斎に運ぶ。
書斎での遅い晩酌、ほっとする一時、一郎は机の上に一枚の葉書を見つけた。
差出人は<牛島達治>
・・・おや、モウちゃんからだ。なつかしいね〜、そういえばずっと会ってないなぁ・・・
中学時代に牛島君と遊んだ記憶がよみがえる。
・・・あの頃、二人とも自転車の組立てに熱をあげてて、一緒にカンパニョーロのパーツを探し回ったなぁ・・・
ワンカップを手に、葉書を嬉しそうに読む一郎
<アートは楽しい10:天国で地獄>・・・? 作品展?そうか、奴は芸術家になったのか!・・・
<文明を検証するための装置>・・・なんだろう?
<伊香保のグリーン牧場>・・・こりゃ行ってみるしかない・・・
一人うなずく。
一郎は好物のチクワを咥えながらつぶやく。
「そうだ、さくらさんを誘おう」


翌日、さくらに電話をする一郎
プルルル。
「もしもし、さくらさんですか?」いつもの渋い声。
「ア、一郎さん。お久しぶり」元気なさくらの声。
一郎「今度の週末、伊香保に行きませんか?同窓生の牛島君が展覧会に出品しているんですよ」
さくら「牛島君、芸術家をやってるって聞いてたよ。頑張ってるんだ!行く行く」
一郎「よかった。それじゃ、今度の日曜日に行きましょう」
さくら「そうだ、キョンちゃんも誘っていい?」
一郎「キョンちゃんってどなた?」
さくら「菱田さんよ」
一郎「ああ、菱田さんかい。いいですねぇ。」
電話を切る一郎


一郎とさくら、そして菱田さんの3人はトーヨーボウル前に集合した。
そこには一郎から連絡を受けた牛島君も来てくれていた。
4人は2台の自動車に分乗して一路伊香保へ向かった。
車中で、牛島君の活躍ぶりを聞く一郎。
一郎「牛島君が芸術家とは知らなかった・・さくらさんは知っていた?」
さくら「もちろんよ。牛島君は、「無用の機械」というコンセプトで自分で作品を作って幾つも発表しているわ。古いところでは谷中で発表したし、目黒美術館や名古屋や広島でも、それに最近では昨年暮れに渋谷でも展覧会があったわ(展覧会へのリンク)」
一郎「それはすごい。全然知らなかった」
さくら「それに、展覧会だけでなく、大阪、広島、立川、愛知県の岩倉、神戸では作品も展示しているの」
一郎「それほど活躍していたとは・・」
一郎の脳裏には、自転車を組み立てていた牛島君ではなく、「巨匠」という言葉が浮かんだ。

環七は少し混んでいたが、関越自動車道は順調に進み、午前中に伊香保に到着した。
さくら「ちょっとお腹が空いたわ」
菱田「私もそう。群馬県と言えばうどんが有名ね。どこかおいしいお店は知らないかしら」
牛島「以前、美術館の人においしいうどん屋さんを聞いたので、案内しましょう」
一郎「それは楽しみ」

うどん屋にて:広瀬、菱田、芹沢、梶、牛島、栗山 確かにこの付近はうどん屋さん多い。が、駐車場を見ると混んでいるとお店とそうでないお店があるようだ。
牛島君が案内したのは「手打ちうどん」の暖簾がかかったお店で、結構お客さんが入っている。
昼時なので待つことになるかと思ったが、すんなり席に着くことができた。
お店の人に訊いたら、「予約の団体さんが渋滞で遅れて・・」とのことだった。ラッキーだった。

早速隣の席のうどんを覗く一同。
一郎「群馬のうどんというと、太くて色が黄色がかっているけど、ここのうどんは真っ白でつややかだね」
菱田「それに麺が細いわ」
メニューを見ると、コースはあるものの、ざるうどん(大小)と二三品のみとあっさりしている。
菱田さんとさくらはざるうどんの小、牛島君と一郎はざるうどんの大を注文した。
さくら・菱田「つるつるでおいしいわ」
一郎「本当においしい」
牛島「喜んでもらえてよかった」

菱田「牛島君、今回の展覧会『アートは楽しい10 天国で地獄』(リンク)はどのような内容なの?」
牛島「今回は、若手8人の作品を集めて、『ハラ・ミュージアム・アーク』という伊香保グリーン牧場内の美術館(美術館へリンク)で行っています。屋内展示と屋外展示ができ、私の作品は両方に展示しています」
さくら「昨年渋谷で発表した作品も展示すると聞いたわ」
牛島「それは『水にまつわる埋もれた記憶から』で屋内展示です。屋外は、96年の『記憶−風景』、97年の『天と地をつなぐ装置−夏の昼寝のために』と新作の『空の声』を展示します」

タイトルを聞いただけではイメージがわかない一郎は思わず、「それはどのような作品・・」と質問しかけて、さくらに「百聞は一見にしかずよ。説明よりも見に行きましょう」と言われ、展覧会場へ向かった。

展覧会場は、伊香保グリーン牧場の隣にあり、高原の美術館である。 美術館外観
会場が広いため、満員にはならないが、あちらこちらに見学者がいる。家族連れもいる。 思わず背伸びをする一郎。
一郎「空が広い!」
菱田「風も爽やかね」
牛島「真ん中の黒い建物の中で屋内展示をして、建物の前に幾つかあるのが屋外の作品です」

記憶-風景 庭の中央にある、大きな風車が目に入った。下にキャンパス地のベッドがついている。
牛島「これは『記憶−風景』といって、このベッドに横になり、風が吹くと風車が回り、ベッドもゆっくりと回転します」
さっそく試してみるさくら。
さくら「うーん、気持ちがいい。このまま眠ってしまいそう」
そこで、菱田さん、一郎も次々とベッドに横になる。
菱田「太陽が風車の隙間から見えて、とてもきれい。気持ちがゆったりするわ」 ベッドに横になって

一郎「建物の前にも小さな風車があるね」
牛島「この大きな風車とで一組の作品になっています」
皆で見に行く。 小さな風車には小さな物が取り付けられ、風が吹くとゆらゆらしている。 ボルト、ボールペン、人形・・いろいろなものがある。
一郎「なんだか子どもの頃を思い出すね」 風に揺れて

天と地を繋ぐ装置を試す牛島君 建物の右側に次の作品がある。
二本のパイプが立っていて、その間をヘッドホンで繋いでいる。
牛島「これは『天と地を継ぐ装置−夏の昼寝のために』という作品です。 作品の外観
長いパイプが空の声、短いパイプが地下の声を集めて、このヘッドホンで聞きます」
ヘッドホンを付けてみる牛島君。

さくら「このヘッドホンの材料はどこかで見たような・・」
牛島「そうそう、身近な材料で作ってみたんだ。パイプは水道管、チューブは洗濯機のホース、ヘッドホンは布団挟みとヨーグルトの容器というように」
菱田さんがヘッドホンを付けてみる。
菱田「風の音と鳥の声が聞こえるわ」 菱田さんとヘッドホン
次はさくらが聞いてみる。
さくら「地下からはかすかに水の流れが聞こえるような・・」 さくらとヘッドホン
一郎「それは地下水かな」 一郎とヘッドホン

その左側にパイプが一本立っている。 作品を見る三人
パイプは回転できて、上にある板を下からピアノ線で角度が調整できる。
牛島「これは、新作の『空の声』で、いわば音の潜望鏡で、上の板を鏡に見立てています。自分で調整すればいろいろな所の音を聞くことができます」
一郎、耳をあてて、板の角度を変えてみる。
一郎「いろいろな音が聞こえる。これはあそこのお客さんの声だ。皆の声もよく聞こえる」
牛島「これは全部で5基あって、7月に実施したワークショップでそのうち3基を作りました。一般の人と作品を一緒に作る機会はあまりなく、楽しかった」

屋外には、有名なアンディ・ウォーホルの「キャンベルズ・トマト・スープ」の作品も置いてあった。 作品の前で一同

屋外展示を見終わり、次は屋内展示へと移る。水にまつわる埋もれた記憶から
牛島「これは『水にまつわる埋もれた記憶から』という作品で、昨年渋谷で発表しました。(展覧会へのリンク)」
菱田「周りで車輪が幾つも回っているわ。お互いタイミングを合わせて、ときどき止まるようになっている。まるで私たちが毎日働いて、ときどき休むみたいね」
牛島「車輪とは別に、水が循環しています。真ん中の台の下にあるタンクからパイプを経由してこの冷却装置に水をたらして凍らせます。氷は溶けた後でパイプ経由でタンクに戻ります」
さくら「台に上って覗いている人がいるわ」
牛島「この構造物からタンクへ繋がるパイプを覗くことにより、すべての車輪は動きを停め、モニタの映像もタンクの中に水がしたたり落ちる様子に切り替わります」
一郎「人がのぞき込むことにより、水の装置と車輪の装置を結びつけることになるね」
 構造物外観
 説明をする牛島君
 車輪の前で一同
 階段の前の一郎
 車輪と牛島君

牛島君の作品の周りには他の芸術家の作品が掲示されている。
他のギャラリーにある作品を鑑賞し終わり、ミュージアム・ショップでお土産を買い込んだ。
一息ついたところで、美術館のカフェ「カフェ・ダール(Cafe d'Art)」でお茶を飲むことにした。
オープンテラスとなっていて、近くに広大な放牧場、遠くに赤城山がよく見える。
伊香保グリーン牧場オリジナルの牛乳とアイスクリームがおいしい。
さくら「爽やかな風が吹いているわ」
菱田「天気も良くて涼しくて、景色もよくてのんびりできるわ」
一郎「東京にいては味わえない気分だ」
さくら・菱田「本当に来て良かったわ」 カフェにて

話は牛島君の次の作品へ。
一郎「次の作品はもう着手しているのかな」
牛島「今は新潟の[越後妻有アートネックレス整備構想](アートネックレスホームページ、アーティストとして牛島君が掲載されています)という今後10年間ぐらいかけて展開していくプロジェクトに参加しています」
さくら「妻有(つまり)というのはめずらしい地名ね」
牛島「越後のとどの詰まりの場所というのが地名の由来という説もありますが、確かに冬の風景を思い浮かべると、なるほどと思わされてしまいます。コシヒカリが有名な魚沼郡界隈の1市5町を舞台として、いろいろなイベントが展開されます」
菱田「段々畑で作品を作るという話を聞いたけど」
牛島「そうです、これを『農業作品化計画』と呼んで、この中で時間をかけて進めていく予定です」

さくら「もう作り始めているのかしら」
牛島「このプロジェクトの中で来年夏に開催されるのが、[大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2000]という国際展です。この展覧会で、まず私はこの風景の中に私の場所を定義するための装置を作ります。もちろん私だけの場所でなく、ここに訪れた皆のための場所となるものです」
菱田「トリエンナーレ・・というと」
牛島「トリエンナーレは3年に一度開催されるという意味です。ビエンナーレは2年に一度ということで、イタリアのベネチュアビエンナーレ、お隣韓国光州ビエンナーレ等あります」
さくら「来年、ぜひ新潟へ行きたいわ。展覧会を見て、その後で温泉に入って旅館で一杯・・」
一郎「いいねえ・・温泉と言えば、ここ伊香保温泉は有名だね。皆で温泉に入って帰ろう」
菱田・さくら「そうしましょう。楽しみだわ」

牛島君は、作品準備のため新潟まで行くため、美術館で分かれた。 車の前にて
菱田さんとさくらと一郎は伊香保温泉へ。
「金太夫・ベルツの湯」に入ることにした。 金太夫・ベルツの湯外観
菱田「変わった名前の温泉ね」
さくら「どうも、温泉医療医の小暮金太夫医学博士とベルツ博士の名前から取ったみたいね」
一郎「このお湯の効用は・・神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、うちみ、疲労回復、冷え性・・といろいろ効きそうだね」
菱田「飲むと、慢性胆のう症、胆石症、肥満症、痛風、肝臓病・・とこれもいろいろ効果がありそう」
一同、温泉に入り、湯上がりでビールをご馳走になった。
一郎「湯上がりのビールは最高!」
くつろぐ一郎。
さくら露天風呂も良かったし、本当、このままここで一泊したいぐらい」
一郎「いつか機会を作って、皆で一泊旅行しよう」
菱田「賛成。私も行ってみたいわ」
湯上がりの一同、その1その2その3

一同いつまでも話はつきませんが・・第九話に続く・・(はず)


シリーズ<さくらと一郎の「遊びに行こう!」>では、 さくらさんと一郎さんが皆様をお訪ねします。どうぞよろしく。

さくら役は芹沢啓子(A組)・一郎役は梶誠一郎(A組)でした
企画・取材・出演・撮影・執筆のスタッフ一同(うどん屋さん前にて)でした


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