学術出版と学術コミュニケーション−ブロッグ(Weblog)

2002年3月26日

3月22日、SPARCはJournal of Vegetation Science (JVS)との提携を発表した。1989年に創刊されたJVSは、国際植物科学協会(International Association for Vegetation Science)の公式機関誌であり、スウェーデンに本拠を置く研究者が創設した自主出版社であるOpulus Pressによって刊行されている。JVSは商業出版社が刊行するPlant Ecology(変遷前誌Vegetatio)の競合誌である。

Vegetatioの編集委員会は、この商業誌の高価格に不満を抱き、1989年に大挙して離脱した。国際植物科学協会が所有する新雑誌であるJVSは1990年に創刊された。Vegetatioの前編集委員の多くはJVSの編集委員会に参加した。JVSは、Opulus Pressによって刊行されている。Opulus Pressは、「高品質の科学文献を低価格で提供することによって、国際コミュニティに貢献することをめざした出版社であり、先端技術を駆使した出版活動を行い、収益の拡大は求めていない。」JVSはOpulus Pressの最初の刊行雑誌であった。Opulus Pressは現在では、JVSのほかに学会と提携して生態学関連の雑誌を5誌発行している。

JVSの2000年期のインパクトファクターは1.589である。一方、Plant Ecologyのそれは0.822にとどまっている。

JVS電子版の機関向け年間購読料は、350米ドルに設定されている。一方、Plant Ecologyの図書館向け購読価格は2384ドルであり、20%の追加料金で紙とオンラインの両方を併せて利用できる。

詳細については、SPARCサイトの下記ページを参照されたい。 http://www.arl.org/sparc/core/index.asp?page=f54

2002年3月20日

LinkOut:PubMedとEntrezを越えて
D-Lib Magazine3月号に掲載された、キャシー・クワン(Y. Kathy Kwan)によるLinkOutの紹介記事

リンキングの力は、ワールド・ワイド・ウェブが科学研究コミュニティにもたらす最も重要な発展のひとつである。リンキングは、発想やコラボレーションを共有するための便利で効果的な手段を提供することによって、科学者や研究者が研究目標を達成するための手助けとなる。

LinkOutは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)が米国国立医学図書館で開発した情報システムであるEntrzのリンキング機能である。LinkOutを通じて、利用者はPubMedやその他のEntrezデータベースからサードパーティが提供する多様なウェブ・リソースへとシームレスに飛び移ることができる。例えば、LinkOutの機能を使って、PubMedに引用されているフルテキストにアクセスすることもできるし、EntrezのNucleotideデータベースのヒトのDNA配列からドイツヒトゲノム計画のリソースを参照することもできるようになる。また、EntrezのTaxonomyデータベース中のGinkgo Bilobaの記載情報から、Gymnopserm DatabaseのGinkgo biloba treeにリンクすることも可能となる。

LinkOutの設計はオープンで柔軟性がある。リンクを提供するためのURLシンタックスには何の制約もないし、またリンク提供者は必要があればリソースへのアクセスを制限することも可能である。外部リソースへのリンクはEntrezレコードのLinkOut表示の中で一覧表示される。PubMedデータベースから、これらの外部LinkOutリソースにアクセスするには、抄録や引用フォーマットのアイコンをクリックしてもよい。

図書館はPubMedのLinkOutを使用する際に、どのフルテキスト・プロバイダにリンクするかを選択することができる。プロバイダの選択肢には、LinkOutに参加する電子ジャーナルの出版社とフルテキスト提供社が含まれる。加えて、図書館は各館で蓄積したジャーナル・コレクションや図書館が信頼できるURLを用意することのできるあらゆる電子ジャーナル・に対してリンクを設定することもできる。その結果、図書館は電子コレクションへのシームレスなリンク及び最適なリンクを提供する利用者環境を容易に構築することができるのである。

PubMed中のリンクの大半は、オンライン・ジャーナルを指しているが、LinkOutの適用範囲はこの基本機能を越えている。LinkOutには、PubMed文献情報の主題分野に特有な情報、利用者の研究・学習にふさわしい情報が含まれている。今のところ、利用者は消費者健康情報、論文への注釈、著者の背景や研究テーマ、論文データセット、標準的治療法ガイドラインへのリンクを利用できる。また、図書館の冊子体コレクション所蔵情報へのリンク機能も開発中である。LinkOutを通じて、PubMed文献情報は、ウェブ上の無数の関連情報への入口(entry point)となるのである。

LinkOutについての各種関連資料は、LinkOutホームページ上に用意されている。


my.OAIサーチエンジンの紹介
my.OAIOpen Archives Initiative準拠のメタデータ・データベースを統合検索するための多機能サーチエンジンである。利用者は各自の関心に合せて自由にカスタマイズすることができる。my.OAIが提供する主な機能は、
  • フォームに基づいて検索式の組み立てることができる
  • 検索結果の閲覧時に要約を自動表示できる
  • 各種リンク情報を自動的にマークアップして該当ドキュメントを表示できる
  • 検索履歴を参照できる
  • 検索結果を(SDIのオプションを付加して)再利用のために保存することができる
  • ドキュメントをフォルダーに保存することができる
my.OAIから検索できるリポジトリは、今のところ下記の通り。
  • arXiv
  • BioMed Central
  • Cite-Base services
  • CogPrints
  • Library of Congress OAI Repository 1
  • LTRS (Langley Technical Reports Server)
  • NACA (National Advisory Committee for Aeronautics Technical Report Server)

インターネット・アーカイブがメリーランド大学と協力して、「国際子ども電子図書館(International Children's Digital Library)」の構築プロジェクトを開始した。
_Guardian_3月14日号のクリス・ミドルトン(Chris Middleton)の記事によれば、5年後には電子ブックよりもオンデマンド出版の方が消費者にとって魅力的な商品になっているという。
オハイオ州立大学はProsperoの2.0版をリリースした。Prosperoはオープン・ソースのインターネット・ドキュメントデリバリ・システムである。図書館はProsperoを使って、文献のスキャン、送信、受信を行うことができる。また、図書館利用者はウェブブラウザ上で自らが依頼した文献を閲覧することが可能となる。つまり、図書館はILLの媒体としてインターネットを活用し、図書館間で文献を伝送し、さらには利用者の手元まで文献を届けることができるようになる。
利用と有用性の評価:図書館での実践と懸念
Usage and Usability Assessment: Library Practices and Concerns, by Denise Troll Covey, January 2002, published by the Council on Library and Information Resources (CLIR), Pub 105.
[概要]
このレポートは、オンラインコレクションとオンラインサービスの利用とその有用性を評価するために、主要な電子図書館で採用されているメソッドについての調査結果を提供している。この研究の著者であるデニス・トロル・コベイ(Denise Troll Covey)は、デジタル図書館連盟に参加している24図書館に焦点をしぼって、評価に従事している図書館専門家に対して数多くのインタビューを実施した。
調査、フォーカス・グループ、ユーザ・プロトコル、トランザクション・ログ分析といった評価技術の適用、長所、短所について記述し、調査の方法論に関するガイドブックとしての役割も果たしている。取りあげられているメソッドの各々について、コベイは念入りな定義づけを行い、なぜ図書館がそのメソッドを利用しているのか、どのように利用しているのか、結果をどう処理しているか、どのような問題に直面したかを解説している。レポートには、詳細な方法論に関する情報を得るための膨大な参考文献目録が付されており、また、特に効果的であることが立証されている評価手段についての説明も提供されている。

2002年3月19日

物理学分野の電子ドキュメントの長期保存
2001年11月5日から6日にかけてフランスのリヨンで開催された、国際純粋応用物理学連合(International Union of Pure and Applied Physics(IUPAP))の「物理学分野の電子ドキュメントの長期保存に関する会議」について米国物理学会のアーサー・スミス博士がレポートしている。この報告書では、電子情報に関心を抱く物理学者、図書館員、出版者たちにとって重要な諸問題を扱っており、電子物理アーカイブの登録システムを整備し、アーカイビングの標準フォーマットとしてのXMLを議論するための専門家によるサブグループを設置すべきである、との勧告をIUPAPに対して行っている。
アグリゲータと図書館員によるラウンドテーブルがLibrary Journalの呼びかけによって開催された。イェール大学のアン・オカーソンがモデレータを務め、アグリゲータ側からはEBSCO、Gale、ProQuestの代表者がパネリストとして参加した。ラウンドテーブルの概要報告は、LJ誌の3月15日号に掲載されている。

2002年3月14日

U-Wireの3月1日号で、ニコル・ウシャーはハーバード大学の3人の教授たちがBioMed CentralPublic Library of Scienceに対して抱いている幻滅感について紹介している。教授たちはPLoSの嘆願運動が雑誌へのアクセス・ポリシーに何の変化をもたらさなかったことに不満を覚えている。同じくBMCの雑誌が、いまだに研究者の論文投稿を促す権威を備えていないことにも苛立ちを感じている。権威のある雑誌は有料であり、無料の雑誌は名声を伴っていない。結局のところ、最優先されるのはこの権威性なのか。
3月1日付けプレスリリースによれば、Digital Library Federation (DLF)は、電子図書館コレクション構築に役立つ、2つの有用な指針の支持を表明した。Institute of Museum and Library Services (IMLS)が策定した「良質なデジタルコレクション構築のための指針(A Framework of Guidance for Building Good Digital Collections)」とDLF自身が定めた「単行本と逐次刊行物の電子複製のためのベンチマーク(Benchmark for Digital Reproductions of Monographs and Serials)」である。

2002年3月13日

カーネギーメロン大学の研究者がフルテキスト研究論文をカバーする2つのサーチエンジンをリリースした。Coraはコンピュータサイエンス、Saraは統計学を対象としている。
New Review of Information Networkingは、最新号で相互運用性(interoperability)の特集を組んでいる。目次のみがオンラインで公開されている。
Documenting the American South
ノースカロライナ大学チャペルヒル校では、6年前からDocumenting the American Southと呼ばれるプロジェクトを開始している。これは、アメリカ南部の歴史、文学、及び文化に関する一次情報源の無料オンラインアーカイブであり、現在では1,000を越える図書のフルテキストと手稿を蓄積し、なお成長を続けている。
参考
A Web Site at the U. of North Carolina Collects First-Person Accounts of the American South (by Brock Read)
Open Database Project
Open Database Projectは、ウェブデータベース・サービスプロバイダーのeCriteriaが後援するプロジェクト。データベースコンテンツを簡単に公開し、共有できるオープンな環境を提供することをめざしている。ODPを通じて、誰もが無料でデータベースを構築し公開することができる。

2002年3月10日

ライデン大学図書館が、無料のオンラインジャーナルのディレクトリを公開した。雑誌タイトルのアルファベット順及び主題によってブラウジングが可能。また、雑誌タイトルや関連する主題語からの検索もできる。
2月26日付け、BioMed Centralのプレスリリースによれば、世界保健機構(World Health Organization: WHO)がBioMed Centralの団体会員となった。WHOに所属する研究者は、投稿料を支払うことなく、BMCの雑誌に論文を掲載することが可能となった。WHOの他に9機関が既に団体会員の登録を済ませている。
Cornucopia
Resource, the Council for Museums, Archives and Librariesは、Cornucopiaと名付けられた、英国の美術館コレクションのためのポータルの構築を進めている。
Caltech Library System Digital Collection
カリフォルニア工科大学(CalTech)図書館は、Open Archives Initiative (OAI)プロトコルに準拠した電子コレクションの構築を積極的に推進している。
Timeline of the FOS Movement(フリーオンライン学術情報年表)
Peter Suberによる、学術情報のオンライン無料提供に関する画期的出来事の年表。

2002年3月7日

eJournals Delivery Service (eJDS)
Abdus Salam International Centre for Theoretical Physics (ICTP)Third World Academy of Sciences (TWAS)は、eJournal Delivery Service (eJDS)を開始した。途上国への学術電子ジャーナルの配信をめざす他のプログラムと異なり、eJDSは途上各国のインターネット接続状況に左右されないサービスをめざしている。資金やネットワークの帯域の不足によって、研究者が実質的にemailしか利用できない地域に向けて、eJDSは要求された論文情報をemailで無料配送する計画を立てている。利用者は、1日最大3件、1週間に最大12件、1年に最大100件の論文をリクエストすることができる。システムに過剰な負荷をかけるのを回避するために、こうした制限が設けられている。Abdus Salam International Centre for Theoretical Physicsは、パキスタンのノーベル物理学賞受賞者(1979年)であるAbdus Salamに因んで設立された。イタリアのトリエステを本拠とし、UNESCO及びIAEAの支援を受けており、途上国の研究促進に寄与している。

2002年3月1日

Van de Velde, Eric F. In Brief: OpenURL Standardization Moving Forward. D-Lib Magazine. 8(2) (2002.2)

短報:OpenURL規格化の進捗状況

OpenURL規格制定の準備作業を行っている、NISO Committee AXは、1月24日、25日の両日、バージニア州、レストンのCorporation for National Research Initiatives (CNRI)の本部において、第2回目の会合を持った。議論の力点は、規格がカバーする範囲の定義から、エンコードの諸問題への対処へと移行した。この点で、第2回会合は転換点としての意味を持っている。

OpenURL技術の既存の応用例は、この規格の潜在的な可能性の表面をなぞっているにすぎない。現在、われわれはOpenURL技術をもっぱら書誌的な引用に適用しているが、近い将来、それを他の多様な情報、例えば主題件名、法律文書、生物学関連データ(ゲノム配列)等に応用することができるであろう。今のところ、OpenURLはHTTP GETもしくはPOST形式でエンコードされているが、間もなく、XMLでOpenURLのリンクをエンコードすることが可能となる。これまでのところ、OpenURLのリンクの提供者として、特定の情報プロバイダーを想定しているが、これも近い将来に、サードパーティがあらゆる情報リソースにOpenURLのリンクを提供することができるようになるであろう。こうした可能性についてはさらに検討が必要であるが、OpenURLがまだ幼年期にある技術であることは明らかであり、われわれは、現在姿を現しつつあるOpenURL規格を、長期的な進化の過程の第一期と考えるべきである。

しかしながら、われわれは短期的な展望のなかでの諸問題も無視することはできない。この規格が、先駆的な採用者による最新技術の開発や進展を妨げることがあってはならない。というわけで、当委員会はNISOに提出されたオリジナルのドラフトを第0.1版として採用したのである。リゾルバーはバージョン番号を持たないOpenURLは全て第0.1版とみなることになる。それ故、第0.1版に準拠したOpenURLは、新バージョンが採用された後も、その有効性を失うことはない。当委員会は、技術革新と試行実験を促すために、下線で始まるパラメータ名は今後一切採用しないという決議を採択した。先駆的採用者は、将来的な不整合を恐れることなく、こうしたパラメータをテスト、開発、デバッグの目的に使用することができる。

第1版は第0.1版とは一線を画する規格となるであろう。第1版には、技術や応用の変更にも左右されない確固たる基本原則が導入されることになる。この7ヶ月間、当委員会はOpenURLの構造と全ての基本概念の定義を詳細化することに相当の時間を費やしてきた。OpenURL第1.0版には、referent、resolver、referrer、referring-entity、requester、service-typeといった6つのエンティティが含まれることになろう。各エンティティは、id、metadata-description (by-value)、metadata-description-pointer (by-reference)、private-zoneといった最大4つの異なる種類のディスクリプタによって記述される。こうしたエンティティの多様性と記述方法の柔軟性は、ターゲットを持った、コンテキストにふさわしいサービスを配信する技術としてのOpenURLの潜在力を高めるであろう。

詳細については、OpenURLのウェブサイトを参照されたい。

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