#1 Comes a Fever
the Story So Far
 


 資産家の娘として何不自由ない生活を送っていた少女,相模原泪。彼女はその日,UGNに入隊した。ひとつには,突如覚醒した力とうまく付き合うための方法を学ぶため。もうひとつは ,数年前,突然失踪した幼なじみの少年を捜すためである。
 彼女にUGN日本支部長・霧谷雄吾が出した辞令は,何故か「2人の部下の上司として」作戦の指揮をとること。慌てる泪の前に,すでに待機していた部下2人が整列する。妙に背筋がぴんと伸びた少年がぴしりと敬礼し ,隣の少年が眠そうに頭を下げた。雨追永と鷹村隆一。彼らはUGNの「ホーム」で育てられたエージェント。ある「高校」に潜入する任務のために召喚された。
 多摩第一高校。T市の中央部にある,ごく普通の市立高校である。その生徒の数名が,レネゲイドウィルスに感染したおそれがあるとのこと。彼らの任務は,その生徒を見つけ出し ,暴走・ジャーム化する前に保護することだ。

 多摩第一高校,朝のグラウンド。朝練を終えた運動部の生徒たちが,三々五々散っていく。水飲み場で顔を洗いながら,松山光とキルスティン・ビョルクはとりとめのない会話を交わしていた。光はサッカー部キャプテン。キルスティンはスウェーデンからの留学生で ,剣道部。彼らはクラスメイトであり,仲がよいのとは少々違うが,まあ気のおけない間柄。だが,実のところ,2人の立場は大きく違った。
 松山光は大らかで優しい普通の高校生。だがキルスティンは生まれながらのオーヴァード。しかも8歳の時,暴走によって父親を自らの手にかけている。そんな過去がキルスティンの表情に影を落とす。その正体が何か ,光は知らない。
 その日までは。

 UGNの3人は,それぞれ「容疑者」がいると思しきクラスへと転入する。泪のクラスには光とキルスティン,そして霧谷から渡された資料の中でも,ひときわ目立っていた2人の少女がいた。明朗快活 ,明るい色の髪をポニーテールにした茶山明日香。おっとりとした性格,美しい長い黒髪の水上磨亜矢。対照的な2人は女子バスケ部の主将と副将であり,無二の親友でもあった。
 要領の悪いお嬢様である泪,一般常識に欠ける雨追,マイペースな鷹村。このトリオによる捜査は当然のごとく難航する。バスケ部に仮入部までして明日香と磨亜矢を探ろうとするが ,オオボケを連発。呆れる光,光とは別の意味で不審感を抱くキルスティン。
彼らと,明日香と磨亜矢の学園生活は続く。未だ,何の異変も見つからない。気になることはといえば,数週間前,明日香が病気で入院していたという程度……。
 
 異変は,松山光の身体に現れた。いつもの通りに朝練を行い,いつもの通りに顔を洗っていた彼は,無意識に水飲み場の蛇口を握りつぶしてしまうのだ。その場に居合わせたキルスティンと泪は顔色を変えるが ,光本人は何も気づかない。

 一方,霧谷から泪に,明日香が倒れたという連絡が入る。慌てて駆けつけると,練習中にいきなり倒れてゴールに激突したとのこと。怪我は大したことがなく,明日香はすぐに目を覚ますのだが……。
泪は明日香が気絶している隙に,彼女の血液を採取していた。彼女は霧谷に調査を依頼。そしてもうひとつ。異様な怪力を見せた光のこと。彼はオーヴァードではないのだろうか。霧谷は引き続き明日香と磨亜矢の調査 ,および松山光の調査と保護を命じる。
 
 その放課後。光は帰宅途中,明日香と磨亜矢,そして彼らと談笑する見知らぬ男性に出会う。彼は千葉と名乗り,明日香が入院した際の主治医であったと微笑む。光は彼の態度に ,何とはなしに不安を抱く。
 ……気がつくと,彼は繁華街の裏路地に迷い込んでいた。何故こんなところにいるのだろう。熱に侵されたように,周囲の光景に現実感がない。何故か因縁をつけてきた不良たちが殴りかかってくる。まるでスローモーション。光はぼんやりとその拳を避け ,彼らが「覚えてろ!」と捨て台詞を残して去っていくのをぼんやり見送った。
 ひどく腹が減っていた。

 光がラーメン屋で空腹を癒していると,雨追と鷹村が現れる。雨追は光をマークするため,発信機をとりつけようとするが,持ち前のトンチンカンな発言により,光に疑念を抱かせるだけに終わる。
 首をかしげつつ,2人を振り払ってラーメン屋を出る光。彼は,そしてあとをつけてきた雨追と鷹村は,夜の路面に血のあとを見つける。そして路地の奥からは,人のうめき声と ,人ならぬモノのうなり声。慌てて駆けつけた3人が見たものは,血まみれになって倒れふした男と,獣のように素早く逃げ去っていく後姿。茶山明日香だった。
 彼女を追おうとする雨追と鷹村。だが,血の臭いと,目の前の光景がもたらしたショックが,光の中の獣を呼び覚ました。レネゲイドウィルスの覚醒。正気を失い,暴れる光を ,雨追と鷹村は何とか抑えつけ,彼らの拠点である泪のマンションに運び込む。
 
 光は見知らぬベッドの上,見知らぬ天井の下で目を覚ます。意識が覚醒していくにつれ,彼の脳裏に昨夜の悪夢が蘇る。混乱する光に泪は叫ぶ。あなたはまだ人間でいられると。
 霧谷から連絡が入った。明日香の血液から,レネゲイドウィルスが検出されたのだ。慌てて明日香に連絡をとるが,彼女は家に帰っていないという。泪の制止を振り切り,部屋を飛び出そうとする光。立ちふさがる雨追と鷹村。一触即発の状況で ,新たな来客が訪れる。
 玄関に立っていたのは小柄な女。UGNのエージェントだと名乗った女は,明日香の居場所がわかったといい,急がなければ手遅れになるという。早速彼女が運転してきた大型車に乗り込む一行だが ,そこへキルスティンが現れ,無理やり同乗する。私にとっても他人事ではない。彼女はそういい,自分もオーヴァードであることを明かす。
 
 目的地は病院。千葉が勤務する病院だ。静まり返った暗い廊下に,灯りの漏れる部屋があった。扉を開けると,中央にはベッドにぐったりと横たわる明日香。その傍らには,千葉が注射器を片手に狂気の笑みを浮かべる。
 怒る光に千葉は告げる。もはや遅い。彼女は完全に覚醒したと。彼の嘲りに呼応するように,横たわる明日香が獣のうめき声を漏らす。
 千葉に襲いかかる雨追と鷹村。一行に襲いかかる明日香。光とキルスティンは懸命に明日香を呼び戻そうとする。
 彼らの説得と献身によって,何とか自分を取り戻す明日香。ギリギリの一線で,ジャーム化の危機は回避される。
一方,追い詰められた千葉は,窓から逃げようとする。逃がすまいと駆け寄る鷹村。だがその目の前で,突如飛来した光が千葉を射抜く。
 ――向かいのビルの屋上で,人影がひとつ,身を翻す。慌てて窓際に駆け寄る一行に背を向け歩き出しながら,その人物は呟いた。
「また会おう,泪……」

 

「何もわからないままにして,私をおいていかないで……」

 UGNのメンバーたちに新たな指令が下された。
 水上磨亜矢をマークしろ。
 彼女の周囲に起こる,さりげない,しかし奇妙な出来事。
 そして相模原泪は,捜していた人物との再会を果たす……。

Next, “By Lost Ways,” see you later.