どっちもやだ。1時間ぐらいなら,歩いて行っちまおう。あの連中とつきあう精神的疲労よりは,単純な肉体的疲労の方がなんぼかマシやもしれん。
疲れきった身体をのろのろと動かし,俺は歩き出した。
やれやれ,とんだことになっちまったな……。
その翌日のことである。
照りつける太陽の下,少年は黙って足元を見た。そこには男が1人,砂にまみれて倒れ伏している。
軽くつま先で蹴ってみた。と,男はほんのわずか身じろぎし,聞き取りにくい声で言った。
「み……みず……」
「あ? ミミズ?」
「じゃなくて……みず……」
「冗談だよ」
ってかここ砂漠じゃねーんだからと少年は毒づいた。(ちなみにここから20分ばかり歩けば防衛隊の事務所がある。ひからびて死ぬのは難しい)
しかたないからつま先でひっくり返してみる。
「……あ」
少年は顔をしかめた。記憶にある顔だ。ロクな記憶ではなかった。人を寝台に縛りつけては,身体を触りまくる危険人物。
「UGNの,男キラー……」
「誰が男キラーだ!?」
腹筋の力だけで起き上がり,叫ぶ男。が,すぐに力尽きて倒れた。極度の疲労から,立ち上がることもできないようだ。
いかなる変態であろうでも,目の前で行き倒れられては寝覚めが悪い。いや,普段ならば放っておいてもいいのだが,今はUGNに少女を預かってもらっている恩がある。
「ったく,面倒くせえなぁ……」
少年は片手で男の足を掴んで歩き出した。掴んで,というか,親指と人差し指だけで「つまんで」いる感じ。ホントは触りたくもないけどやむを得ませんから,と言わんばかりの態度である。
「誤解だ……」
ずるずると引きずられながら,男は泣いた。さめざめと。
「あ? 何が誤解だって?」
「だから,俺は男キラーじゃない……」
「ああ? じゃあ何で人が運び込まれるたびにベッドに縛り付けて,ついでに体触ったりすんだよ?」
「違う……それは俺じゃないんだ……いや,俺なんだが,あれは俺の意思が介在しない,大いなる神げえむますたーの手によって動かされた謎の俺なんだ……てか,あんなの俺じゃない……認めてたまるか……」
行き倒れていたわりには,切々と言葉を紡ぐ男。どうやらよほど何かを訴えたいらしい。泣いている。だばだばと涙を流して泣いている。本気で脱水症状になるんじゃないかと思うくらいの勢いで泣いている。
かなり不気味。
「おまえにだって覚えがないか,草薙……」
「あ?」
「ただ共に暮らしてるだけの少女に,やれ彼女だの,幼妻だの,謂れのない疑いをかけられ……」
「…………」
「果てにはロリコンだぞロリコン!? おまえだって俺の気持ちはわかるだろう!?」
少年は立ち止まった。20メートルほど先に,防衛隊事務所が見えた。体格のいい男たちが,こちらを指差して何やら言い合っている。
「……あのな」
男の足首を,あらためて強く握りなおす。そして灰色の建物に向かって,
「どぉあれがロリコンア○ター使いだーーッ!?」
力の限りに投げつけた。
弧を描いて飛んでゆく男。その行方を見もせずに,彼は背を向け,再び荒野に歩を進めた。
「……まったくよぉ。ハムスターとかへたれーとか男キラーとか,UGNにはそんなんしかいねえのかよ?」
「お,俺が言ったんじゃないのにいいいいいッ!? それと俺は男キラーじゃねえええええええええ!?」
彼の呟きが聞こえたかのように,遠くで男が叫んでいた。
END
《管理人からヒトコト》
ちょっと大谷さんが別人っぽく?
しかし,ツッコミどうしの会話というのは結構無理があります。よって本邦初公開(かもしれない)ボケにまわった大谷さん。なんだかなぁ。
(⇒最初からやり直す)
|