*** SCENE 23 ***
 



 ちょっとぐらい恥ずかしくても安全な方がいいや。沖に連絡してみよう。

 君嶋たちに礼を言って資料室を出ると,「ブルーゲイル」へ電話をかけた。沖はまだ起きていた。
「はい,こちら運送屋『ブルーゲイル』でございます。1/100デ○ル○ンダムからM109自走榴弾砲までなんでもお任せください」
「運ぶな,んなもん。……あのな沖,大谷だ。ちょっと仕事を頼めるか」
「金さえいただければ何でも運びますよ。で,何ですか。核廃棄物を北極海の波間に捨ててこいとか?」
「それは違法だ」
「ではまさか,部屋に棲みついたモンキーカイザーを北極海の青い波間に」
「できるものならとっくに頼んどるわい。いや待て,ひょっとして可能なのか?」
「暴れないよう厳重に梱包していただければ可能ですが」
「……梱包も運送業者の仕事じゃないのか」
「危険物の場合,オプション料金をいただきます。お高くなりますよ〜?」
「くそっ,人の足元を見やがって……!」
 虚しい押し問答をすることしばし。俺は「いやそうじゃなくて」とツッコんでから,沖に事情を説明した。
 ビルの前で待っていると,20分もかからず沖がやってきた。
 一目で彼だとわかる。悪目立ちするスカイブルーの機体(身長約7メートル)。大地を揺らしながら迫ってくるその姿に,気持ちが萎えそうになる。
 俺はその足元に走りより,コクピットから顔をのぞかせた沖を怒鳴りつけた。
「こらぁ! なんでわざわざサプンクルで来るんだよおまえは!?」
「問題ない。トレーラーに変形が可能だ」
「じゃなくて,だったら最初からトレーラーで来いよ! いや,そもそもこんなのじゃなくてもっとマシな車はないのか!?」
「なにィ!? ボ,ボクのサプンクルをバカにする気かー!?」
「だー! こぉのロボットアニメヲタクがー!」
「私をヲタクと呼ぶなー!?」
 虚しい押し問答をすることしばし。俺は「だからそうじゃなくて」とツッコんでから,とにかくサプンクルをトレーラー形態に戻すように言った。
「いや,『戻す』ではない。ロボット形態こそサプンクルの真の姿で……」
「だぁら聞いてねえんだよ! 正気に返れ!」
「私は常に正気だが」
「『正気』の意味を言ってみろこんボケぇ!?」
「『精神が正常なこと。気がたしかなこと。確かな心。本気』」
「誰が辞書を棒読みしろと言ったかーッ!?」
 虚しい押し問答をすることしばし。俺はもはや突っ込む気力もなくしつつ,変形を終えたサプンクルに乗り込んだ。
「しかし,変形してしまうとバズーカが使えない。注意が必要だ」
「使わんでいいわ,そんなモン!」
 く,くそう。
 やっぱり沖に頼むのはやめときゃよかった。
「乗り心地はいかがですかー? ちなみに,スピードだけでなくアメニティにも気を配っております」
「それはいいから一般常識に配慮せんかーッ!?」


 余談だが。

 本当に乗り心地はよかった。
 何でさ。
 マジで理不尽すぎるぞ。なんかもういろいろと。(⇒次へ