*** SCENE 22 ***
 



 余計な金は使えないよな。伊達に頼もう。


 ぶちまけられた岩の欠片が,一瞬ストップモーションで俺の目に映り,すぐ背後へと消え去っていった。次いで耳障りな音が脳を貫く。車体が横に揺れる。シートベルトが腹に食い込む。さらに大きな縦揺れ。身体がシートから浮き上がる。落下。上昇。車体が比喩でなく宙に舞っている。着地。衝撃。ボードに両手をつっぱって必死でこらえる。
 歯を食いしばっていないと舌を噛みそうで,「止めろ」と叫ぶこともできない。
 かわりに目で訴えかけたが,
「やー,大谷さんを乗せるなんて久しぶりですからねー! はりきってカッとばしますよー!?」
 通じるわけもなかった。
 とゆーか。
 どーしてこの状況でふつーに話せるんだよおまえわあッ!?
「で,ちなみにあんなところに何しに行くんですかぁ?」
「だから千葉が手紙で……ッ!」
 やっぱ舌噛んだ。
「そうですか,また千葉サンが無茶なこと言ったんですねえ」
 あくまでも朗らかに伊達が言う。
 涙が浮かんだ目で睨みつけるが,こっちを見てさえいない。
「あの人も困った人だなぁ。あ,もう死んでるかぁ」
「…………」
「しかし,それでわざわざ市外まで出かけていくなんて,大谷さんも本当に人が好いんだからなぁ」
「…………」
「これで行ってみたはいいものの,『ふりだしに戻る』とか『ばーかが見るー』とかだったら笑えますねえ。あはははは」

「笑えるかああああああああッ!?」

 思わず伊達の首を絞めてしまった。
「わッ!? ちょっと待ってください大谷さん,今運転中……!」
 メーターは時速160キロを示し,しかも超オフロード。運転手は伊達。本当に免許をとったのか!?疑惑が常につきまとう伊達栄吉。彼はあっさりハンドルを切り損ね,

 車は巨岩に激突して爆発炎上した。


「もー,やだなぁ大谷さん。運転中の人間に抱きつくなんて,危ないじゃないですかぁ」
「…………」
「あーあ,これで今月に入って12回目だよ。車ぶつけたの」
「おまい,ホントに免許持っとるんだろうな!?」
「持ってますよー。それに,12回っていっても大破したのは3回目だし……」
「十分じゃああああああああッ!!」

 もう二度と,二度とこいつの車には乗らんぞ俺はッ!

END


《管理人からヒトコト》
 栄吉っちゃんはなんかこう,雨追と近しいものを感じるなぁと思います。つまり,善意の人ですが悪気がなければ何やっても許されるわけではない,というか……。
 ちなみに彼が免許取得試験の試験官をタラすため,裾の短いハーフパンツを穿いていったかどうかは定かではありません。

 

(⇒最初からやり直す)