他に何もなかったのか,と藤原に訊いてみよう。
「藤原,このカード以外に何かなかったか?」
「このカードと,あとは封筒ですね。他には何もありませんでしたよ」
念のために封筒を見せてもらった。白無地,葉書サイズの,ごく一般的な封筒だ。表にも裏にも何も書かれておらず,口の状態からすると封もしていなかったようだ。封筒をひっくりかえしたり,灯りに透かしてみたりしたが,特に何も見つからない。
「やっぱり,ただのイタズラかな……」
そう口にしたら,急激に眠くなってきた。よろめきながらスツールに腰を下ろす。どうも限界が近いような気がするな。
「大谷さん,そろそろ帰って寝た方がいいんじゃないですか?」
「あ? ああ,そうだな。そうするよ。すまなかったな,わざわざここまで来てもらって」
「いえ,大谷さんのせいじゃありませんよ。じゃあ,僕もそろそろ帰ります」
にっこり笑って会釈し,藤原は出ていった。
さて,俺も帰って寝るか。
立ち上がろうとしたところへ,すっと紅茶の注がれたカップが差し出された。
「いかがですか? 疲れがとれますよ」
店主が微笑んで言う。ありがたくいただくことにした。ああ,今日は珍しく人の情けが身にしみるなぁ。
一口飲むと,ふうっと気分が楽になった気がした。美味しい。
美味しいんだが,これは本格的に眠くなってきたなぁ……。
…………。
…………。
「意外とアッサリ効くんですね,このお薬」
カウンターに突っ伏した男に上着をかけてやり,少女は首をかしげた。彼はぴくりとも動かなかった。寝顔はわりと安らかだが,顔色はよくない。
「……疲れてるみたいですわね。そんなにUGNのお仕事って大変なのかしら」
「仕事とは常に労苦を伴うものだよ,お嬢さん」
店主はカップを取り上げて言った。紅茶はほとんど減っていなかった。流しに捨てて,洗い流す。
「で,これからどうなさるおつもりですの」
「気になるかね?」
答えはなかった。店主はエプロンで手を拭き,窓の外を見る。ヘッドライトが薄暗い店内に差し込んできた。
「UGNに主導権をとらせるわけにはいかない。我々としては……」
映し出された影が向かってくるのを横目で見ながら,彼は呟く。
「1年だな。1年彼が表舞台から外れてくれれば,戦局は変わる」
「そうですね。案外,その方が幸せなのかもしれませんわ」
乾いた声で少女が答える。同時にドアベルが鳴り,黒っぽい服を着た男が2人,何も言わずに入ってきた。
彼らは終始無言のまま,眠っている男の手足をとって運び出していった。
――その後,大谷氏の行方は杳として知れない。
END
《管理人からヒトコト》
キケンは思わぬところに潜んでいるエンド。
え,何のことかわからない? そもそもこいつらは誰だ,ですか?
……えーと詳しくは第4部にてっ!(あっ,逃げたっ)
(注:このエンドが第4部につながっているわけではありません。念のため)
(⇒最初からやり直す)
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