もう少し部屋を探してみよう。何か他に手がかりがあるかもしれない。
や,昔あったんだよなぁ。「アコシタコゴゴサコンジニワコタシノヘコヤヘキコテクコダサココイ」って書かれたカードだけあって,おかしいなと思っていたら部屋の隅から「大谷さんへ・補足」って紙が貼りつけられたこけしが出てきたとか。
「うーん」
1時間後。俺は考え込んでいた。
探して探して(ついでに掃除もして),見つかったものはただひとつ。
まだ答えは見つかりませんかー?
急いでくださいねー?
でないと……爆発しますよ?
タイムリミットは00時00分! ふぁいとっ!
――カードが挟まっていたソファの,クッションの裏。
そんな文句が書かれたカードが,ガムテープで貼り付けられていた。
「冗談だろう,オイ……」
掛け時計を見上げる。すでに12時2分前。もう時間がない。
……しかし,本当にこんなところに時限爆弾なんか仕掛けるか? もちろん機密書類なんかは金庫の中だが,ここに積んである資料や本だってそれはもう貴重なものだ。もしダメになったら大惨事。俺の仕事が2週間は滞る。
いくら姫宮だって,そこまで悪質なイタズラを仕掛けるだろうか?
「そうだよな,いくら姫宮だって……」
――やりかねん。
冷や汗が背を伝った。そうこうしているうちに長針は1分前を指している。焦って周囲を見回す。
と。俺はようやく,その小さな異変に気づいた。
ちっ,ちっ,ちっ……と秒針が動く音。慣れたはずのその音が,妙にぶれて聞こえる。最初は疲れているせいだと思っていたが,どうもそれだけではないようだ。
――たぶん,複数の時計が音をたてている。だからぶれて聞こえる。
慌てて周囲を見回す。いつもの時計は入って向かいの棚の上。音から判断すると,もうひとつはその近くにあるはずだ。
棚の上,何もなし。裏側,何もなし。ファイルはさっき全部ひっぱりだしてみたが,何もなかったはずだ。
「……待てよ」
俺は椅子を引きずってきて,掛け時計を壁から外してみた。
あった。
裏側に,体長20センチくらいのピンクワニが貼り付けてあった。ずんぐりした腕で拳大の時計を抱えている。
短針と長針がともに真上を指している。そして音をたてて動く秒針が,あと5秒でそれに揃おうと,
「……くそっ」
迷っているヒマはなかった。窓を叩き割り,暗闇に向かって時計ごと物騒なピンクワニを放り出す。
――がしゃん。
下の方で,時計が砕ける音がした。
静寂。
…………。
…………。
「…………。あれ?」
割れた窓から寒風が吹き込んでくる。それ以外に音はない。静寂。
時限爆弾は,どうした?
そしてようやく俺は気づいた。
先刻まで掛け時計がかかっていた壁。そこに,5ポイント(約1.75ミリ)くらいのちんまい字で,最後のメッセージが残されていた。
なーんて。
私が大谷さんの仕事場に爆弾なんて仕掛けると思いました?
まさか,そんな非道なことはいたしませんとも。キルスさんじゃあるまいし。
まさか,真に受けて時計を外に放り投げたりしてませんよね?
ダメですよ,物は大事に扱わないと。もったいないオバケがでますよー?
「…………」
がくりとその場に崩れ落ちる。
今夜はもはや,立ち上がれそうになかった。
END
《管理人からヒトコト》
直接暴力に訴えるのがキルス。
あくまで陰惨に言葉で痛めつけるのが泪。
そして咲耶榎さんはひとひねり。
いぢめ方にも三者三様。
(⇒最初からやり直す)
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