*** SCENE 04 ***
 



「楓! おまえも何とか言え!」

 怒鳴りつけると,楓は慌てて身を起こし,上ずった声で弁解を始めた。
「い,いや泪,誤解なんだ」
「誤解?」
「そ,そうだ。実はホテルの予約の手違いで,泊まる場所がなくなって,それで俺も疲れていたから悪いとは思ったがひとまず大谷の家に避難させてもらって,そうしたら大谷が留守だったのでとりあえずソファを借りて仮眠をとらせてもらって,そうしたら大谷が帰ってきて,あー,それでだな,大谷が俺を起こそうとしたら俺がソファから落ちてしまったんだ,それで……」
「そうだったの。大変だったわね」
 泪さんは頷いた。それは「いいのよ,私は何もかもわかってるから」とか言いたげな慈母の微笑みだったが,
「だったら,自分の家に帰ってくればいいのにね?」
 目は全然笑ってなかった。マジで怖い。
 後ずさった楓がすがるような目で俺を見た。が,これってもはやイイワケのしようがないよなぁ。
 さて,どうフォローしてやったもんだか……。
 と,そこへ勝手に○サヒ○ライを開けながら,
「楓ちゃんにとっては,もはやここが『自宅』なんだよねー。真から合鍵もらって,しょっちゅう入り浸っているみたいだしー」
 フォローどころか,燃え盛る火にTNT火薬投げ込むようなことを言う奴が約1名。
「…………」
「…………」
「…………」
 泪さん目が怖い。
 マジで怖い。
「こないだなんかもさー。あたしが泡盛持って遊びに来たらさー。真がいなくて,何故かこいつが冷蔵庫のプリン勝手に食ってんのよね。勝手知ったる他人の家ってヤツ? 何やってんのかしらねホント」
「…………」
 だから。どーしておまえは,核融合炉にプルトニウムをぶち込む類のことしか言えんのだキルスよ。
 と,何が気に障ったのか,いきなり楓がキルスに詰め寄り,
「いや,あの『秋味なめらかプリン』はそもそも俺が買ってきたんだ。なのにおまえが10個のうち9個まで1人で食ったんじゃないか」
 や,楓よ。おまえも論点全然違うし?
「何よ。とられるのがイヤなら名前でも書いとけば?」
「何だと? だいたいおまえはいつもそうじゃないか。自分は土産も買ってこないくせに,人が用意したものはしっかり食うんだ。というか,俺はおまえの分もちゃんと用意しただろうが」
「用意してないじゃないのよ。何であたしだけコンビニのバナナプリンなのよ。納得いかないわ」
「サルと言ったらバナナだろう。何か文句があるか」
「あるわよ。誰がサルよ」
「好物だろうが。こないだ冷凍庫に何か妙なものが詰まってると思ったら,ラップにくるんだ冷凍バナナが14本だぞ?」
「あげないわよ。というか,冷凍バナナは基本でしょ」
「何の基本だ。だいたい何故バナナばかり14本だ」
「うるさいわね。何であんた人ん家の冷凍庫チェックしてんのよ。バカじゃないの?」
「馬鹿は貴様だ。おかげでせっかく買ってきたタラバガニを入れておくスペースがなくて慌てて調理する羽目に……」
「あ,それいつのこと!? あたし食べてないわよ!?」
「冷凍庫を占領したのは貴様だ。文句を言われる筋合いはない!」
 いや,じゃなくて。
 そもそもアレは俺ん家の冷蔵庫で冷凍庫だ。まずそこに気づけ。
 がっくりと肩を落とした俺の前で,キルスと楓は北海道名物夕張メロンシャーベットの行方を巡って怒鳴りあいを始めた。
 こいつらのことだ,いつ怒鳴りあいが取っ組み合いに発展するか知れたもんじゃない。今のうちに泪さん連れて退避した方がいいかもしれんな,てゆーか寝場所を返せこんちきしょう。
 と,泪さんと目が合って,
「愛されてていいですね,大谷さんは」
 彼女は静かに微笑んだ。

 目が怖え。
 マジ怖え。

 ああ……愛されてないとは言わないけれど,
 ――誰か俺に,もっとマトモな愛をください。

END


《管理人からヒトコト》
 食べ物の恨みは怖いエンド。いやちょっと違うか。
 てゆーかキルスと楓って実は仲がいいんじゃないか?(レベルが同じだから,という説もある)

 

(⇒最初からやり直す)