Coda//Home, sweet home.
 

 

M:では,聖痕の解放ですが……。
ジュリアン:あぁ,力っていいなぁとか堕ちかかってる俺がいるんですけど(一同笑)。
GM:君が1人面白いよーにDPダメージくらったなぁ。ま,大丈夫でしょ。今回はいっぱい飛ぶから(笑)。えーと,まずアルカナのアダマス,フィニス,アルドールね。それからアングルス,フィニス,アクア,ファンタスマ,フルキフェルにグラディウスと。アルカナ変えたい人はいる?
シャイニー:コロナ変えたいなぁ。使えん。
GM:それはそうだろうけど(笑),ちょっと待ってくれ。∵紋章∵使うようなシーンがまだ残ってるんだ。
ネモ:ええ?
GM:さーて,それはともかく全員1D20+9ぶんDPが回復する。
ジュリアン:全回復しました。ああ,力なんかどうでもよくなってきた。やっぱ金だな。
一同:(爆笑)
コロ:どっちにしろ黒いやんけ!
ジュリアン:いや,金は使い方次第で人を幸せにできるぞ。
ネモ:する気があんのかよ。
GM:はいはい(笑)。ところで,エンディングの前にもうちょっとあったりして……。

 

SCENE 14(レクス・逆位置)


GM:順番でいうとシーン・プレイヤーはコロなんだけど。
コロ:回されても困る。シャイニーに譲ります。
GM:では,そゆことで(笑)。では,そろそろ夜も明けそうだ。あなたの前にはやはりロアルドの死体が転がっているわけだけど。
シャイニー:…………。
GM:そこへ,人の声がする。村人たちがやってきたようだ。
コロ:え?
ジュリアン:ここは村を挙げてお礼の宴会ということで。
GM:ちゃうわい(笑)。「あっ,アロイスさま!」「おまえら,ご領主さまを殺したな!」
ネモ:……そうきたか。
ファリィ:違いますわ。この人はアロイスさまじゃありません。その証拠に車椅子を使ってらっしゃらないでしょう?
GM:倒れててわかるかそんなん(笑)。
ファリィ:はうぅ。で,でも足見ればわかりませんか?
ネモ:足の悪い人間が,こんな重い鎧を着て森をうろつきまわるものか。こいつは別人だ。
コロ:例の盗賊の親玉なんだよぉ。
GM/村人:「じゃあ,アロイスさまはどこへ行ったんだ!」
コロ:お屋敷で待ってるんじゃないの?
GM/村人:「執事さんの話じゃ,屋敷のどこにもいらっしゃらないんだそうだ。しかも車椅子が置きっぱなしに……」
ファリィ:そんな,あの足でどこへ行かれたんですの?
シャイニー:まさか……。
ジュリアン:ロケットで逃げたか!
一同:それはおまえだけじゃ!
GM:(脱力している)いや,そーじゃなくて(笑)。
シャイニー:じゃあきっぱり言います。この方はアロイスさまじゃない。兄上のロアルドさまだ。
GM/村人:「まさか! ロアルドさまがこんなお若いわけないじゃねえか」
シャイニー:ロアルドさまは闇に堕ち,世の理の届かぬ場所へ行ってしまわれたのだ。
ファリィ:私たちは彼を闇の[鎖]から解き放つため,闘うしかなかったのですわ。
GM/村人:「そんな……ロアルドさまはこの村を愛していなさった。そのお方が鉱山を襲うなんて……」
シャイニー:愛しておられたゆえだと,そう言われた。
GM/村人:「ど,どういうことだ?
シャイニー:この村の人間でない私には,その意味まではわからない。だが,彼の想いが偽りではないことはわかる。
GM:……えーとね,もうちょい説得力があると。
シャイニー:もちろん。ここで∵紋章∵を使います。
一同:おおーっ(拍手)。
シャイニー:村人たちよ,盗賊はいなくなったが,鉱山ももはやない。これから村を立てなおすには,大きな困難が待っていよう。まずはアロイスさまをお探しするのだ!
GM:了解。では,村人たちはロアルドのことは納得したとして,アロイスを探しにいくわけだけど。
ファリィ:……見つからない気がします……。
シャイニー:…………。

 

SCENE 15(ファンタスマ・正位置)


GM:ラストです。とりあえずどうします?
コロ:お屋敷に戻って,アロイスさんを探す,よね?
GM:判定するまでもなく,彼はどこにもいない。
シャイニー:パーカーさんは?
GM:パーカーはかつての主の部屋にぽつんと座って,車椅子を見つめている。その顔は,1日で10年も老けこんだように見える。
シャイニー:……パーカーさん,アロイスさんは。
GM:彼は放心したようにじっと車椅子を見ているだけだ。
ネモ:今は何を訊いても無駄だろう。
シャイニー:そうだな……酒場に行こう。アルさんがいるかもしれない。
ネモ:あの吟遊詩人か。
GM:えーと,酒場ね。酒場の客は,こないだよりだいぶ減っている。片隅ではお目当ての吟遊詩人がレクイエムを奏でていたりするけど,特に誰が聴いているというわけでもなさそうだ。
ネモ:(いきなり)あんたがアロイスさんか?
GM:は?
コロ:ちょっと待った。なんかものすごくうがった見方してない?
ネモ:いや,ファンタスマっぽかったから……。
GM:うーん,確かにその展開は面白かっただろうけど,そういうんじゃないよこの人(注:ただしアルカナは確かにファンタスマ=ウェントス=ステラである)。
シャイニー:ワインとグラスを持ってアルさんの前に座ります。
GM/アルフレッド:「……次の歌をご所望ですかな?」
シャイニー:そうですね,この間の続きを聴かせてくれませんか。
GM:アルは寂しそうに微笑み,リュートを奏ではじめる。

 彼は,村から少し離れた場所に家を建てた。
 家には彼と,心きく召使ただ1人しかいなかった。家族はすでにこの世になく,あれほど仲のよかった村人たちとも距離をおいた。
 村人たちは最初とまどったが,しばらくするとそんなものだと思うようになった。領主としての彼は寛大で慈悲ぶかった。彼らの暮らし向きははるかによくなった。彼らはそれで満足した。新しい領主を素直に受け入れ,尊敬の念すら抱くようになった。彼がかつて,村の一少年であったことを忘れて。
 彼らは彼らで,新しい生活を送ることに必死だったのだ。
 龍の脅威が去り,鉱山が開かれた。男たちは次々に村を出て,鉱山へ出稼ぎに行った。ちっぽけな土地にしがみつくより,はるかに実入りがよかったからだ。
 ……彼は何も言わなかった。
 時折,屋敷の前の高台から村を眺めていた。次第に荒れ果ててゆく畑と,彼方で黒い煙を吹き上げる鉱山を。ただ眺めていることしかできなかった。
 彼が屋敷に閉じこもるわけを知っていたのは,おそらくかの召使だけではなかったか。
 
シャイニー:年を,とらなくなったせいですね。
GM/アルフレッド:「……私が彼と出会った10年前から,すでにその兆候はありました。彼は私より5つ年上だと言ったが,とてもそうとは見えなかった。彼が危険な任務を買ってでたのは,村にいづらくなったせいもあるのでしょう」
ネモ:不死者はどこでも忌み嫌われる存在だ。下手すると命が危ないからな。
コロ:あたしと,同じ……。
ネモ:…………。
GM/アルフレッド:「私のように,あちこち旅をしてまわれるようならよかった。しかし,彼はそれでも村を離れたくなかったのでしょう。私が何と言っても彼は屋敷から離れようとはしなかった。その代わり,意味もない車椅子を作り,自分は旅に出るから跡目は弟に継がせると偽って……」
ジュリアン:同時に,鎧と剣を作ったわけか。
シャイニー:あなたの口から聞いておきたい。彼が何故,あのようなことをしたのか……。
GM/アルフレッド:「それは彼にしかわからない。ただ,彼は寂しげにこう言ったことがある。『あの龍さえ倒せば,全てうまくいくと思ったんだ』とね。彼がどんな想いをもって龍に挑んだか,私は知っている。その見返りに彼が手に入れたのは,愛した故郷が次第に病んでゆく現実だった……」
シャイニー:…………。
GM/アルフレッド:「もうやめましょう,こんな話は。そう,昨日会った時,彼は喜んでいましたよ。あなたがこんなに大きく,立派になったことをね。ああなってさえ……」
シャイニー:アルさん,ロアルドさんもアロイスさんももういない。私がここに留まることはできるでしょうか。
GM/アルフレッド:「あなたが?」
シャイニー:私はこの村を護りたい。それがあの人の望みならば。……と,いうわけでコロナをアダマスに変えます!(笑)
一同:(拍手)
GM:アルは小さく「ありがとう」と呟いて,彼の形見の剣を……。
ファリィ:マスター,マスター。
GM:ん?
ファリィ:水さして申し訳ないんですが,剣って爆破されてるんじゃ。
一同:(爆笑)
GM:的確なツッコミありがとう(笑)。じゃ,楯にするか。その方がアダマスっぽいし。

「これは私にはとても使えない。あなたが持っている方が,彼も喜ぶでしょう」
「ええ。大切にします」
 シャイニーが楯を受け取ると,吟遊詩人は疲れたようにため息をつき,深く椅子によりかかった。
 その前にグラスが置かれ,紅いワインに満たされてゆく。
 顔を上げた吟遊詩人に,シャイニーは軽くグラスを掲げてみせた。
「今宵はあなたと飲み明かそうと思いました。あの人を偲んで」
 吟遊詩人はかすかに微笑んだ。同じようにグラスを掲げ,一気に飲み干す。それから,たてかけてあったリュートをとった。
「では次の曲を……」

 

ENDING 1  The Moving


 とりあえず,僕の師匠はまともじゃありません。
 つくづくそれを再認識してしまった僕なのでした。
 今回の事件……と申しましても,僕がお話しできることはあまりないのです。僕は村で留守番していただけで,師匠たちが戻ってきた時には,ことは全て終わっていたのでした。
 で,わけもわからないまま,師匠に鉱山の跡地に連れて来られ,ここでAさんとBさん(この人たちはネモさんに脅されて仲間になった山賊だそーです)が同行しているというのもよくわかりませんが,とにかく師匠は,僕たちに言いました。
「ここにアジトを建てるぞ!」
「…………」
 ほんのちょっと前までは,ここはものすごく栄えた鉱山だったそうです。でも今はただの岩山です。むしろ,打ち捨てられた工具だの建材だのがひたすら寒々しいです。
 無駄だとわかってはいましたが,僕は師匠に訊いてみました。
「ししょー,ここの鉱山閉まるんですよね?」
「うむ,少なくともシャイニーはそのつもりらしいな」
「つまり,ししょーはここの鉱物目当てじゃないんですよね?」
「あァ」と師匠はポン,と手を打ちました。
 今の今まで忘れていたらしいです。
 僕はめまいをこらえつつ,さらに訊きました。
「だったらなんでこんなところにアジト建てるんです?」
 不便です。土地は荒れてます。そもそも痩せてます。周りに何もないです。村はシャイニーさまのお屋敷から離れたところにありますが,ここからはもっと離れています。その他,悪条件を上げればキリがありません。
 繰り返させていただけるなら,まともな人間はこーゆーところには住みたがらないはずなんです。
 でもうちの師匠はまともじゃないんで,きっぱりと言いました。
「何と言っても,ここは山の上だ」
「谷の下ではないでしょうね」
「はっきり言って,シャイニーんとこよりも高いな」
「高いだけですけどね」
「古来,偉大な人間は高いところを好むものなのだ!」
「バカも高いところが好きだっていいますけど」
「よぉし,納得したようだな。それでは,もっとはきはき働くのだ!」
「…………」
 相変わらず人の話をきかない人です。
 というわけで,僕たち(僕とAさんとBさん)はとりあえず工具やら何やらの後片付けをしているわけなんです。後は何をも言うことはありません。
 やれやれ。
 ………………。
 そう言えばね。
 うちの師匠は,ごくたまーにですけど,マジメな顔もできる人です。
 元々顔立ちは美形の部類に入るんだから,いつもそうやってればかっこいいはずなんですけど。口を開けばボロがでるんだから,それはしょうがないです。
 それはともかく。あの時,師匠はシャイニーさまのお屋敷を見下ろしながら,そのたまーにしかしないマジメな顔をしていました。
「死人にやるには,少々もったいない剣だな」
 僕が見上げると,師匠はそんなことを言って,微かに笑いました。
 シャイニーさまのお屋敷の,裏庭の,あのキラキラ光っているものって,剣なんだって,僕はその時知りました。
 あんなに光ってるんですから,きっといい剣なんでしょうけど。
 師匠があれをくすねてこようとしないのは,僕にはちょっぴり不思議です。
 何ででしょうね?

――右手は天を指し,左手は地を指す。万象の流れは絶えることなく

 

ENDING 2  The Moon


「ほい,約束のもんだ」
 実際,俺はホントに意識してなかったんだ。奴に向けてさし題したはずの手が,どうも中途半端なところで止まっていたらしい。奴の手が,俺から強引に革袋を奪い取っていた。そこでやっと気づいた。
 俺は意味もなく手を握ったり開いたりしながら,内心苦笑していた。
 アロイスという男は死んだ。暗殺者は依頼を遂行した。俺らは暗殺者に金を払う。暗殺者はそれを受けとって去る。それ以上の説明を求めない。自分も説明しない。
 もちろん,俺にも,ネモにだって多分わかっていることだろう。
 今回の件――もちろん,アロイスなんて貧乏領主を殺して得する奴なんかいない。依頼主の,ついでに俺らの関心の的はあの鉱山。先は長くないと言われちゃいたが,それでも後10年は保つはずの,あの宝の山だ。
 アロイスはただの貧乏領主だ。だが直系の子息を持たないグレイド卿にとって,兄貴のロアルドは特にかわいい部下だろう。いずれ,鉱山の管理をまかされるかもしれない……そういう思惑あっての,今回の依頼だ。
 わかってはいるが,ネモは何も言わない。
 俺も何も訊かないのが礼儀だ。が,その時に限って,俺は思わず訊いてしまった。正直,非常に腑におちなかったからだ。
「例の鉱山,な。閉鎖されるって本当か?」
「ああ」
 立ち去りかけていたネモは,舌打ちしつつ,それでも律儀に立ち止まって言った。俺は重ねて訊いた。
「よくグレイド卿が認めたな?」
 何故だ?
 そう訊く。
 正直答えが返ってくるとは思っていなかったが,ネモは面倒くさそうにこう答えた。
「あの鉱山はダメだ。グレイド卿とやらにも,それがわかったんだろうさ」
「…………? どういうことだ?」
「あそこは墓標だ。だから,そっとしとかなきゃならんってことさ」
 俺は――俺はその時,目を丸くして奴の顔を眺めていた。
 結構長い付き合いになるが。
 まさか真顔でこういうことを言う奴たぁ,ついぞ,思いもしなかったぜ。

――我は影の中に生きるもの,夜を抱く光。死者の眠りは侵すべからず

 

ENDING 3  The Wind


 世の中には不思議なことっつーのが色々ある。
 だから俺は別に驚きゃせんかった。
 俺の目の前のカウンターに,娘っこが1人,ちょこんと座っている。マテラ人らしい褐色の肌の,多少大柄だが,まぁ普通の女の子だ。それはいいが,その前に積み上げられた,皿,皿,皿……。
 ちなみに,ウチのAランチは大の男がフツーに満腹するくらいの量にしてあるつもりなんだが……。
 俺の勘定がおかしくなければこのガキゃあ,ゆうに5人前は平らげやがった。
「おじさーん,今度はCランチお願いねー!」
 ちなみにCランチは,Aランチよりは量が少なくは,ある。
 繰り返すが,俺は別に驚きゃせんかった。
 何となく,胸が悪くなってきただけだ。
 娘っこの連れらしい陰気そうなにーちゃんも,やっぱり胸の悪そーな顔をしている。もっとも俺が見たところ,このにーちゃんが心配しているのは娘っこの胃の具合ではなく,財布の中身のようだが。
「はー,お腹いっぱい! ごちそうさまぁ!」
「……おまえ,ちょっとは遠慮とゆーものをだな……」
「んー? だって,おしごと終わったから,好きなもん食べていいって。おにーちゃんが」
「ああ,言った。確かにそう言ったが……」
 にーちゃんの方は,うまい言葉を捜すように宙を見つめていたが,やがてがっくりと肩を下ろした。
「いや,もぉいい。おまえに向かって,こともあろうに,『好きなものを食べていい』,などと言った俺が,悪い。ああ,どうせ俺がみんな悪いんだ」
「どして? 別におにーちゃん悪くないじゃない」
「…………」
 俺はちょっとだけ,陰気なにーちゃんに同情した。
 昼間から酒を飲むのも,飲まなきゃやってられんってことなら見逃せる。もっとも,このにーちゃんはまったく酔えない性質のようで,相変わらず陰気な青白い顔のまま,じっと何かを考え込んでいる。
「そうか,あの時のガキか……」
 にーちゃんはいきなりそんなことを呟いた。
「あの時の,ガキ?」
「……いや。何でもない」
 それですますな。
 と,俺でさえ思ったのだから,好奇心旺盛なお年頃の娘っこがそれで納得するわけがない。子犬のようなつぶらな目でじー……っとにーちゃんの横顔を眺めている。にーちゃんは根負けしたらしく,
「……色々あるのさ,長く生きているとな」とごまかした。
「ふぅん……」
 娘っこはやはり子犬のように目をぱちくりさせていたが,
「長く生きるのって,つらいのかな?」
 手の中のカップに目を落とし,そう言う。誰に向けての言葉なのか,俺にはわからない。にーちゃんはさらに顔をそむけて「さて,な」と呟いた。
 カウンターの上に置かれたままの手を,小さな手がそっとつかんだ。
「でも,死んじゃうより生きていてくれた方がいいよね」
「……ああ」
 その時,ほんの一瞬だったんだが,にーちゃんが初めて笑顔を見せたような気がした。
 それはひょっとしたら,いわゆる感動的なシーンというものであったかもしれん。俺にはよくわからんかった。それで,俺は厳かとも言える調子で,こう言った。
「全部で1フローリンと35ペンスだよ,にーちゃん」
 にーちゃんは,またものすごく陰気そうな顔になった。

――汝,永世なる頚木につながれしものよ。いつしか行こう,我が手をとりて

 

ENDING 4  The Diamond


 ご主人様は結局,あの若者にはお会いになりませんでした。
 正直申し上げれば,その時,私は少々困惑しておりました。というのも,あのようなお役は私本来の仕事ではなかったからです。
「申し訳ございません,主人は近来身体がすぐれず……」
 などと当座のごまかしをいたしました私の前で,若者はさすがに落胆の面持ちで呟きました。
「そうですか。……いえ,結構です。正直,会っていただけるとは思っていませんでしたので……」
 だんだん小さくなっていく声をうけて,私は答えました。
「失礼ながら,私が伝言を承って参りました。例の鉱山の件でございますが,シャイニー様のよろしきようにと」
「……は?」
「それと,ロアルド様の所領は,どうぞシャイニー様がお納めくださるようにと。以上でございます」
 若者はさすがにぽかんとした顔で私を見ておりました。それから事情が呑み込めたとなると,非常に引き締まった,よい顔をいたしました。黙って私と,ドアの向こうのご主人様にそれぞれ頭を下げ,言いました。
「グレイド卿に,くれぐれもよろしくお伝え下さい。感謝しておりましたと。それと僭越ながら……」
 彼は顔を上げ,ちらりと右手の甲に目をやりました。
「……ロアルド様が護ろうとしたものすべて,必ず私が護ってみせます。グレイド卿には,心安らかにあられますよう」
 私が申し上げるのもなんでございますが,この若者,実際お会いになっていれば,きっとご主人様のお気にめしたかと存じます。あの時の少年とよく似た目をしておりました。
 若者が帰った後,私はご主人様にそのように申し上げました。
 ご主人様は苦笑いして,直接のお答えはくださいませんでした。ただ,窓の外を眺めながら,こんなことをおっしゃいました。
「……私にも感傷というものはある」
「はあ」
「若かりし頃の思い出に浸ってみたいこともある」
「さようでございますか? それならば……」
「ああいう若者の前ではな,英雄の役を演じ続けていたい。そういうことだ」
 私は何も言わず,いつもの通りに一礼いたしました。
 本当のところを申し上げれば,「やはりお会いになるべきでした」と申し上げたかったのですとも。ええ,その通りです。
 ご主人様は私どもにとって,これまでも,これからも英雄でございますよ。
 あの若者にも,そしてあの時の少年にとっても。ええ,きっとそうでございますとも。

――誇り高き金剛よ,侵されぬ楯よ。時の流れも汝を滅ぼすことあたわず

 

ENDING 5  The Star


「母様,いかがいたしましょう」
 アネットはそう言って,私の顔を見上げました。
 もとより色々と気を回す性質の子ではありますが,今日はさらに心配そう。もっとも,こんな手紙を見た後では,それもいたしかたないと思いましたわ。
 私ですか? もう苦笑いするほか仕様がありませんでしたとも。
 そもそもファリィときたら,そのシャイニー様って方に言われるまで,私たちのことを思い出しもしなかったんじゃないかと思うのですよ。ええ,情の薄い子だとか,そういうことを申し上げているわけじゃございませんよ。
 何と言ったらよろしいでしょうね?
 そう,壊滅的に暢気なのですわ。こんな手紙を寄越したりして,私たちが心配するだろう,なんてことは頭の片隅にも浮かばないのですもの。
『お言い付けの件,片がつきました。でもアロイス様も亡くなられて,代わりにシャイニー様という騎士様がお役につくことになりました。私はその方のお手伝いで,もう少しここに留まろうと思っております。お母様,お姉様方には,どうかご心配なさらぬよう。私は元気です』
 ……どうして前後の事情を詳しく説明できないのとか,事後承諾を得る前に一言くらい相談してもいいんじゃないのとか,仮にも聖職にあるものが『片がついた』なんて言い方をすべきではないとか,言いたいことは山ほどございましたけども。
 仕方がないので,私は放っておくことにいたしました。
 私にとっても,覚えがございます。ええ,女は誰しも,英雄との旅を夢見るものでございますよ(……ファリィがそのようなかわいらしいことを考えるか,となると少々疑問も残りますが……)。
 そういうわけで,私は笑ってこの手紙を破り捨て,アネットたちにも心配せぬよう言い含めておきました。
 ……あら,あの子ったら。
 私の聖印を持っていったままだわ。
 まだ修行もロクに終わっていないというのに,仕様のない子だこと。

――その名は「希望」,我らが道行きを照らす光。賢くあれ,気高くあれ,無垢であれ

〜 Fin 〜