幸せって何ですか? プロローグ 一人の青年が立っている。 まだ若い。二十歳を超えてはいないだろう。 ここは墓地。 青年の手には花束。 表情は分からない、顔に大きな黒いバイザーをかけている為だ。 「早いな・・・あれからもう四年だ・・・」 ポツリと呟き、目の前の墓に花を添える。 「だが、まだ分からない・・・」 寂しそうに、既にこの世にはいない、愛しき人に問う。 「お前が言っていた『幸せ』とは、どんなものだったんだ・・・?」 だが勿論、答えが返ってくるはずもない・・・ 代わり思い出されるのは、彼女の最期。 『私は幸せだから・・・』 『貴方に出逢えて・・・』 『貴方と同じ時間を過ごすことが出来て・・・』 『本当に、幸せだったから・・・』 『だからお願い・・・』 『私の死に縛られないで・・・』 『過去に捕らわれないで・・・』 『明日に目を向けて・・・』 『そして、どうか貴方も・・・』 『幸せになって・・・』 彼女が青年に残した、最後の言葉。 なんの誇張でもなく、彼女は本当に幸せそうに微笑んでいた。 そして、強く願っていた。 『幸せ』になって、と。 「彼女の姉であった貴方なら、知っていますか?」 何時の間にか後ろに立っていた女性に、振り返りもせずに問う。 だが女性は応えず、無言で佇むのみ。 「だが・・・例え『幸せ』がどういうものなのか分からなかったとしても・・・ 約束、だからな・・・」 それ以上は口を開かずに墓地を後にする青年。 彼の後に立っていたはずの女性も、何時の間にかいなくなっている。 後には小さな墓に二つ、花束が添えられているだけ。 それは1998年、春の出来事。 彼は・・・『幸せ』になれるのだろうか? |